2013年6月29日土曜日

「既に起こった未来」に備える3つの取り組み

SI事業者が、これまで収益の基盤としてきた受託・請負型のビジネスが、これから益々厳しくなるであろうことに、多くの皆さんが不安に感じられています。

いくつかのSI事業者に伺ってみると、アベノミクスの影響か、売上は復調しているものの利益率はむしろ下がり気味であるところが多いようです。短期的には何とかなっても、中長期的な施策を今打たなければ、いずれは厳しい経営を強いられることになるでしょう。

では「何をすべきか」です。今日はこの点について、最近考えていることを整理してみようと思います。


 1.マーケティング
SI事業者は、ユーザー企業からの依頼に誠実にお応えすることをモットーとしてきました。ユーザー企業からの依頼が潤沢にあり、それを誠実にこなしていれば、リピートが期待できたからです。 
ユーザー企業が成長し、仕事もそれに伴い増えている間は、自分たちも成長することができたのです。しかし、リーマンショックを境として、このサイクルは壊れてしまいました。ユーザー企業の成長の勢いは衰え、事業の主体は海外へとシフト、国内での需要は頭打ちです。 新たな市場へ参入し、顧客ベースを拡げなければなりません。そのための取り組みがマーケティングです。  
これまで、SI事業者にとってマーケティングは不要でした。しかし、既存ユーザーだけでは成長が見込めない事態になり、これまで以上に新規顧客獲得の重要性は高まっています。  
多くのSI事業者は、これを営業の役割として、かれらにこれまで以上の自助努力を求めているところが多いようです。 しかし、これは間違えです。 
市場を拡げ、新規顧客を獲得するための戦略と施策をこなしてゆくのはマーケティング活動であり、それを営業(セールス)に負わせるべきではないのです。  
マーケティングのミッションは、新規顧客となりうる可能性のあるリード情報(意志決定に関わる担当者や責任者の個人情報)を取得することにあります。営業は、その情報を使い顧客との商談を行い、受注に結びつける役割を担うのです。  
顧客を引きつける魅力的なサービスや商品、そして、それを展開するシナリオを示さないままに、営業個々人の自助努力にゆだねるには、あまりに負担が大きすぎます。 
クラウド・モバイル・ソーシャルなど、これまでのビジネスの常識を大きく変えるテクノロジーが、自分たちの顧客や分野にどのような変化をもたらすかを理解しなくてはなりません。また、これらの変化が自社の収益構造にどのような影響を与えているか、あるいは今後与えるかについて客観的な評価を行う必要があります。  
「この商品をどのように売ろうか」を考えることがマーケティングはありません。自分たちの向かうべき市場はどこかを見極め、そこにどうやって参入してゆくかの戦略を組み立て、施策を打つことがマーケティングです。  
「誠実に取り組めば成長できる」。かつてはそれで成功できましたが、今は苦境に立たされています。その流れを変えるための施策がマーケティングです。自分たちだけでスキルがなければ、お金を払ってでも外部に知恵を求めるべきです。そして、そのノウハウを吸収し、社内に人材を育成すべきです。なによりもマーケティング組織を作り、優秀な人材を投入すべきです。このような取り組みなしに、新規の顧客を拡大することはできません。

2.事業構造
SI事業者の事業区分を見ると、「販売」、「SI/開発・構築」、「サービス」といった3つに分けて、組織と事業責任を割り当てているところが多いようです。しかし、この事業区分が、新しいビジネスや顧客の創出を阻害しているのではないでしょうか。  
SIビジネスが厳しいので何とかしたい。」そんな相談を頂くことがあります。しかし、SI市場そのものが将来に期待できない以上、そこにどのような施策を打っても、何とかできるはずはないのです。 同様に、ハードウエアやソフトウェア・ライセンスの販売も、コモディティ化やクラウド・シフトのトレンドの中で、市場そのものがますます厳しい状況に追い込まれようとしています。派遣や運用、製品保守といったサービスも自動化やクラウドの流れに、市場の拡大は期待できません。 
 旧態依然とした事業区分にそれぞれ収益責任を持たせ、その拡大を求めても無理があるのです。  
事業区分の壁を取り払ってみてはどうでしょう。縦割りで自分たちの事業区分でしか考えない慣行を破壊してみてはどうでしょう。それぞれの事業にあるノウハウや強みのシナジーを引き出し、新たな組合せによる事業を創出すべきです。  
市場の変化に追従していない既存の事業区分をそのままにして、個別の収益性を何とかしようとしても無理があります。市場に即した事業区分に変えて、その収益性を追求してみてはどうでしょうか。

3.評価制度
多くのSI事業者が、販売や構築で得られる一時的収益の減少を補い、長期継続的なストック・ビジネスの拡大を模索しています。それを「重点施策」、「事業戦略」と称し、現場への取り組みを促しています。その一方で、事業や営業の評価は、売上や利益に偏重したものになっています。 評価は、短期的な売上と利益の拡大であり、重点施策は、短期的な売上や利益が期待できないストック・ビジネスの拡大では、現場のモチベーションは上がりません。特に事業転換の過渡期においては、この不一致は発生しやすいといえるでしょう。  
確かに、経営的視点から見れば、短期的な売上や利益の拡大は必達の使命です。それを直接現場の評価にするのではなく、戦略的な成績評価の指標を作るという方法もあるでしょう。例えば、ストック・ビジネスの拡大を促すために、契約後5年間の売上・利益を短期的な売上・利益に上乗せして、それを業績として評価する。あるいは、ストック・ビジネスについては、特別なインセンティブを与えるなどが考えられます。  
事業戦略や重点施策が、現場の成績評価に一致しないようでは、現場のエネルギーをそちに向けることができません。

以前、このブログで「収益モデルとしてのSIと顧客価値としてのSI」という記事を書きました。そこでも述べたように、お客様の価値を高める取り組みとしてのSIに対する期待は、今後ともなくなることはありません。しかし、人月の積算を前提とする収益モデルは、これまでにも増して厳しくなります。この現実に立ち向かわなければなりません。それには、大きな意識の改革がもとめられます。

私は今、とても心配していることがあります。それは、昨今の需要の拡大です。そのために現場は忙しくなり、将来に向けた取り組みに人材を手当てせず、施策の先延ばしすることです。まさに、売上や利益に偏重した評価制度が、未来への先行投資を妨げています。

すでに起こった未来を明らかにし備えることは可能である」とは、ドラッカーの言葉です。短期的な需要の拡大は中長期を約束してくれるものではありません。未来は既に起こっているのです。それに備えることは、今でなければできません。

先行者は既に着々と手を打っています。状況が変わったときに対処していては、太刀打ちできないでしょう。

これは経営者の責任です。難しい判断かもしれません、現場の反発もあるでしょう。それを乗り越えてビジョンを示し、未来に備えることは、余裕のある今しかないように思うのです。


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2013年6月22日土曜日

「全員営業」という精神的負担と本当の意味

「全員営業で頑張って欲しい。」

こういう言葉を安易に使う経営者も少なくないようです。

「営業じゃないのに、自分も営業して案件を見つけてこなきゃいけないんだ。」
「開発でめいっぱいなのに、売り込みなんかできないし・・・」
「営業センスのない自分に、営業しろと言われてもねぇ・・・」

その心を丁寧に伝えないままに、「全員営業」という言葉だけが一人歩きし、時にして現場に大きな負担を与えてしまっていることがあります。

「営業があるからこそ自分たちの仕事があり、給料がもらえる。だから、営業は自分のため。営業という意識を持って働かなきゃいけない。」

「分かっちゃいるけど、じゃあ営業できるかと言われても・・・」

こういうことになってしまうのは、「営業」という言葉を共通の理解がないままに、それぞれに解釈してしまっているからなのでしょう。

「営業」を「目的としての営業」、「行為としての営業」、「職務としての営業」に分けて考えてみるといいかもしれません。

目的としての営業
営業の目的は、お客様の価値を高めて、その対価として代金を頂く行為です。モノやサービスは、お客さまの価値を高める手段であり、それを売ることが目的ではありません。  
「お客様の価値」とは、お客様の業績の向上、つまり売上や利益の拡大かもしれません。あるいは、働きやすい環境を作ることかもしれません。これまでにないビジネスを始めることかもしれません。それを知り、実現することが営業の目的なのです。

行為としての営業
どうすれば、お客様の価値を高められるかを追求することです。「営業活動」と言い換えることができます。  
「営業活動」とは、お客様の業務や経営について徹底的に理解し、深く考察することです。そういう話題をお客様と語り合い、強固な信頼関係を築くことです。そして、解決すべきテーマ、すなわち案件を明らかにします。その上で、内容を具体化し、解決に向けた取り組みを実施することでお客様と合意することです。

職務としての営業
「行為としての営業=営業活動」全般に責任を持ち、円滑に進める任務や仕事です。利害関係の違いを調整する、金額を交渉する、必要なリソースを調達・手配するなどの仕事です。  
「行為としての営業」で、お客様と合意したことを実現するためのプロデュースの仕事と言い換えることができます。様々な協力者やお客様の協力を引き出し、受注を獲得すること。そして、デリバリーの成功のためにPMを支援し、お客様の満足と対価の回収を確実に行う仕事でもあります。

このように考えてみると、「全員営業」とは、「目的としての営業」を全員で共有することに他なりません。そして、「行為としての営業」や「職務としての営業」は、それぞれの役割において、自分の責任を果たすことではないでしょうか。

例えば、エンジニアであれば、お客様の価値を高めるために、業務をどのように変えればいいのか、どのようなテクノロジーを使うべきか、どのような開発手法や運用の方法を使うべきかを調べ、提言することが「行為しての営業」における役割となるでしょう。また、提案書の作成に協力し、必要なシステムの構成や技術的な助言をすることが「職務としての営業」における役割になります。

大切なことは、「目的としての営業」を自覚し、お客様の価値を高めるために自分ができることは何かを、それぞれの立場において追求することです。だれもが一律に「職務としての営業」をこなすことではないのです。

「全員営業」とは、決して精神論ではありません。同じ目的を共有し、お客様の価値向上のために、全員がそれぞれの役割を全力で果たすことです。

とても当たり前のことです。「全員営業」などと、取り立てて言う必要などないのでは、という意見も聞こえてきそうです。

その通り、それができていれば、その必要もありません。しかし、営業が、「お客様の価値を高めて、その対価として代金を頂く行為」であるという、共通の理解が棚上げされ、モノやサービスを売ること、システムを開発することなどの手段が目的となってはないでしょうか。お客様の業務や業務に関心を持たず、自分が何のためにやっているかが分からないままに、日々の職務をこなしてはないでしょうか。


そういう現実を見つめ直し、当たり前に立ち返る言葉が、「全員営業」なのだと考えてみてはどうでしょう。

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2013年6月15日土曜日

新人営業の皆さんへ 優秀な営業になるための方法をお教えしましょう

「営業として一人前になるためには、何を勉強しておけばいいでしょうか。」

営業職への配属が決まっている新入社員を対象とした研修で、こんな質問を頂きました。そして、こう答えました。

「全てです。」

「営業は、ものを売り、お金を得る仕事だから、製品や技術についての知識をつけ、説得やプレゼンテーションのスキルを学んで、お客様と交渉できなきゃいけない。そういう力を早く身につけて、1人で営業できるようになりたい。」

そう思っているのではありませんか。でも、それは間違えです。

営業は、モノやサービスを売る仕事ではありません。お客様に満足を提供する仕事です。

お客様は、貴方が与えてくれる満足に感謝し、その対価としてお金を払ってくれるのです。モノやサービスは、お客様の満足を実現する手段であり、お金をもらう手段にすぎません。

「どうすれば、お客様を満足させられるのか」これを追求することが営業の仕事ともいえるでしょう。

ではどうすれば、そんな能力を身につけられるのでしょうか。次の3つの提案をしたいと思います。

まずは、「ささやかな習慣」を身につけることです。

お客様に満足をお届けするためには、お客様についての深い理解が必要です。お客様はどういう業務をしているのでしょうか。規模や業界での順位はどうなっているでしょうか。どのような製品やサービスを得意としているのでしょうか。お客様の経営状態はどうでしょうか。貴方が担当する部門はどういう仕事をしているのでしょうか。情報システム部門は、どのようなシステムを使っているのでしょうか。組織はどうなっていますか。誰が何を担当し、責任者はだれでしょうか。今どんなことが課題となっているのでしょうか・・・

お客様を理解するためには、様々な情報を手に入れなければなりません。しかも、お客様の状況は常に変化しています。手に入れた瞬間から情報の陳腐化が始まります。その変化にも追いつかなければなりません。

このような情報を手に入れ、理解するためには、経営や業務についての知識が必要です。業界や経済、時事のニュースについても関心を持たなければなりません。財務諸表も読めなければなまりません。

ITについての知識も必要です。情報システムの基礎や歴史、開発や運用の仕組み、テクノロジーの最新動向。マーケティングやマネージメントについての知識も欠かせません。

確かに、プレゼンテーションやドキュメンテーションの能力も必要です。でも、お客様を理解できなければ、伝える方法をいくら磨いても、何の役にも立ちません。

「そんなに、やることがあるんですか。一生かかっても無理ですよ。」

そうです。無理です。できるはずありません。きっと一生できないでしょう。

営業の勉強に、ここまででいいはありません。取りあえずもありません。勉強しづけなければならないのです。

「ささやかな習慣」が、この問題を解決してくれます。毎朝一時間、勉強のために時間を作るだけのことです。たったそれだけです。電車の中で本や新聞を読む時間以外にです。休日もまた同様です。

知識は、常に積み上げであり、更新です。そのための習慣を身につけることです。営業力は、そんな土台の上に築かれてゆくのです。

次は、「想像力」を身につけることです。

打ち合わせの席で居眠りをしていたら相手はどう思うでしょうか。靴を脱ぎ、横柄な態度で相手の話を聞き流すようにきょろきょろしたり、内職をしていたらどうでしょうか。きっと、相手は貴方の存在を不快に思うでしょう。

貴方が知っているからと言って、相手が知っているとは限りません。それにもかかわらず、こちらの一方的な説明や資料を送りつけたとしたら、相手は困惑するはずです。

想像力を働かせてください。相手は、何を伝えようとしているのでしょうか。何に困っているのでしょうか。どこまでご存知なのでしょうか。どういう説明をすれば、分かってもらえるでしょうか。どのような話題ならば、興味を持っていだけるのでしょうか。どうすれば、喜んでもらえるのでしょうか・・・

そんな想像力を働かせながら、真剣に相手の話を聞いていれば、きっと眠くはなりません。気がついたことや相手の関心事についてメモを取り、分からなければ質問をします。相手の考えていること、相手の立場、相手の期待を想像することです。

自分から気の利いた説明をしようなどと思わないことです。まずは、想像力を働かせ、真摯に相手に向き合うことです。信頼はこういう態度から育まれてゆくのです。

最後は、「失敗の積み重ね」です。

新入社員の皆さんは、「若気の至り」という、期間限定の特権が与えられています。有効期限は、せいぜい28才といったところでしょう。お客様に満足してらおう、成功させようと、積極的にチャレンジしての失敗ならば、マイナス点になることはありません。叱られはするでしょうが、評価はプラスです。

この期間に失敗という自分の屍をどんどんと積み上げることです。気がつけば、それは高い山となり、あなたはその頂上に立って、遠くを見渡す力を身につけているはずです。

周りがどう考えるかではなく、自分はどう思うかで行動することです。その結果は、貴方自身が負わなくてはいけません。その覚悟は必要です。しかし、「若気の至り」期間中であれば、先輩や上司が、貴方の失敗を一緒に背負ってくれるでしょう。

「ささやかな習慣」、「想像力」、「失敗の積み重ね」。営業力を身につける、最も効果的な方法です。

もうひとつ、研修についてもつぎのことを理解しておいてください。

「研修で成長できるなんて、期待しないでください。」

研修は、皆さんに成長の切っ掛けを与える場でしかありません。研修で成長できるとか、知識が増えるとかを期待しても無駄です。皆さんの成長は、講師の責任ではないのです。

研修で気付いたこと、学んだことを実行してみることです。研修で分からないことを調べることです。関係しそうな本を読むことです。成長するかどうかは、皆さんがそれをやるかどうかです。全て自分の責任です。それを会社や周りの責任にしてはいけません。

お客様に満足を与えるためにどうすればいいのか。それが、営業という仕事のテーマです。このテーマを忘れず、ひたむきに追求すれば、いずれは周りも認める優秀な営業になっているはずです。

そのためのマニュアルはありません。直ちに使えるスキルなど、期待しても無駄です。

ここで提案したことをやるかやらないかです。それには決心がいります。努力が必要です。しかし、それを手に入れておけば、一生の宝物になることだけはお約束します。


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2013年6月8日土曜日

「最先端の田舎」を見てきました

2013530(木)、羽田からの最終便で徳島に向かいました。羽田を飛び立ち1時間、徳島空港に到着した私は、空港からさらに1時間、その日の宿である上勝町にある「月の谷温泉」へ、真っ暗な山中をタクシーで飛ばしました。

ご存知の方も多いと思いますが、ここ徳島県上勝町は「葉っぱビジネス」で一躍有名になったところです。「葉っぱビジネス」とは、日本料理を飾る「つま」の葉っぱを収穫し、全国の青果市場に卸すビジネスです。おばあちゃん達が、ネットつながったタブレットを手に取り、受けた注文を見ながら山に入って収穫する。今ではタブレットを片手に年収1000万円を稼ぐ人もいるのだそうです。




限界集落といわれるこの地域、若い働き手は少なく、過疎が振興している地域でした。そんな地域にITが新しいビジネスを生みだしました。残念ながら、仕事の都合で到着が遅くなり、日中の現場視察の機会は逸してしまいましたが、見学された方々の話を聞き、その感動がひしひしと伝わってきました。ご興味があれば、こちらのビデオをご覧ください。かっこいいおばあちゃん達が、登場しますよ。

翌朝、この上勝町の山をはさんだ隣町、神山町へ向かいました。こちらは、東京や大阪のIT関連企業が古民家を改築しサテライト・オフィスを数多く開設しています。ここに移住し、仕事と生活の拠点を移した人もいらっしゃいました。徳島で一番人口が増えている町だそうです。かつて、過疎の町、限界集落と言われたこの地域が、なぜ、そんなことになったのでしょうか。その理由を知ることが今回の旅の目的でした。



これまで度々被災地を訪れ、未だ復興が進まない現実を目の当たりにしてきました。もともと過疎地域だった被災地は、震災によって、過疎化が加速しています。復興しても、元に戻すだけなら過疎の進行が止まることはありません。新たな産業、あるいはそれを生みだす都会の人たちとの交流人口を増やすことができなければ、真の復興はあり得ないと考えています。

神山町を訪れたいと思ったのは、そんな過疎地の復興に役立つ知恵がそこにはあるのではないかと思ったからです。

おおいに刺激を受けてきました。何かができそうです。今日は、いつもの話とは、毛色の違う話ですが、ITのあらたな可能性を考える上で、参考になるのではと思い、紹介させていただきます。

神山町が、このような変貌を遂げた理由は、「ブロードバンド」、「神山塾」、「お接待文化」、そして、「新しい働き方を求める人たち」というキーワードにあるようです。

ブロードバンド



徳島県は、地デジへの移行に伴う難視聴対策として、10年をかけて全ての集落に光ファイバー網を張り巡らす取り組みを行ったそうです。おかげで、ネットワークの快適さは全国屈指だそうです。地元の人から、「東京ではYou Tubeが途中で途切れるんだそうですね。びっくりしました。」なんて話を聞きました。



東京からサテライト・オフィスに移ってきた人は、「あまりの速さに驚きました。東京ではとてもこの快適さは味わえません。」とのこと。高速の光ファイバーと利用人口の少なさがこの環境を生みだしているそうです。 おかげで、都市部とは大画面でテレビ会議をつなぎっぱなしにし、コミュニケーションに遜色のない環境を整えているところもあるのだそうです。



このようなインフラを作り上げたことが、サテライト・オフィスを開設する魅力になっているようでした。

神山塾
NPO法人グリーンバレーが、厚生労働省の認定を受け、「緊急人材育成支援事業(基金訓練)」および「求職者支援訓練」として行っている取り組みです。イベントプランナー・コーディネーターの養成をめざし、地元の人たちと係わりながら、6か月間の訓練を行っているそうです。先日第4期が終了したそうです。驚いたのは、受講生11名のうち8名がこの町に残って仕事をすることになったのだそうです。訓練の期間を通じ、神山の人と自然に魅了されていったのでしょう。たった1日の訪問で偉そうなことを言うようで心苦しいのですが、たしかにそんな魅力を感じるところです。

人を呼び込み、地元につなげる神山塾。こんな取り組みがあるからこそ、若い人材が、この山奥に集まってくるのでしょう。

お接待の文化
徳島県は、四国遍路の出発点です。昔から外の人を受け入れ、おもてなしを尽くす文化を育んできたのだそうです。そんな伝統が、神山にもあるようです。



 「こんにちは、大変ですねぇ」、田植えの準備しているおじいちゃんに声をかけたら、笑顔で応えてくれ、しばし田植えのこと、神山のこと、多くの人たちが外からやってきたことへの想いをなまり言葉で語ってくれました。そんな気さくさが、この町のいたるところにあります。



東京からこちらに移り住んだ女性からは、「子ども達が、みんな丁寧に挨拶するんですよ。びっくりしました。」という話を聞き、そういう当たり前ができている土地柄なのだと感じました。だからこそ、外から来た人たちも惹かれてしまうのでしょう。

新しい働き方を求める人たち
高速のブロードバント・ネットワークは、ITで仕事をこなす人たちにとって、何の不足もありません。加えて、都会にはない豊かな自然、気さくな人たちが、ここ神山にはあります。都会にしがみつく理由などありません。都会よりも、遥かに豊かな生活ができます。


落ち着きのある古民家を改装したオフィスは、とても洒落ていました。荒れ果てた古民家や蔵を都会の建築家が、その古き良さを活かしながら近代的なオフィース空間にリノベーションしている現場を何件か拝見しました。また、かつての土蔵が、サーバーを収納するデータセンターに作り直そうとされていました。耐候性に優れた土蔵はサーバーを収納するには都合がいいのだそうです。




オフィスだけではありません。南仏料理のレストランを構えようと準備している女性にも出逢いました。神山に惹かれ、やってきた彼女は、地元の猟師さんの弟子となって、一緒に山の中で狩りをしているそうです。いずれは、自分で獲ったジビエを料理にだそうと考えているそうです。

新しい働き方を求める人たちが集まり、またその仲間を呼び寄せてくる。そんな循環が生まれているようです。そんな志を共有する人たちが、この町の将来を真剣に考え、地元の人たちと一緒になって取り組もうとしている姿を目の当たりにし、とても感動を覚えました。

レストランの開店を準備されている女性からこんな話を聞きました。

「何かやろうと声をかけても東京じゃあ、人はすぐに集まりません。でも、ここだと、すぐみんなが賛成してくれるんです」。

彼女の声は、明るくとても弾んでいました。価値観を分かち合える人たちが集まっているからこその連帯感がここにはあるようです。


最後に、神山町の魅力やこれからを考えるイベントに参加してきました。会場は、元縫製工場。そこを改築し、共同利用のサテライト・オフィス、「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」が作られています。とても近代的なオフィスでした。そこになんと、120名もの人たちが集まってきました。




このイベントで印象に残った言葉があります。神山町へのサテライト・オフィス誘致に取り組むNPO法人グリーンバレーの理事長・大南信也氏の言葉です。

「モノではなく、ヒトとヒトのつながりを中心とした取り組みです。これが神山町にサテライト・オフィスが集まってくる理由なんです。」

切っ掛けは、ITです。しかし、それは切っ掛けに過ぎません。そこにやってきた人が、地元の人、都会の人をつなげ、さらにその人達がその輪をさらに拡げてゆく。そこに新しい組合せが生まれ、再び人や企業を呼び込んでいる。そんな自律的サイクルが今の神山町にはありそうです。

「イノベーションとは新しい要素ではなく、これまでになかった新しい「新結合」がもたらすものだ。」

近代イノベーション論を説いた経済学者シュンペーターの言葉です。古き良き伝統と新しい技術や人々との新結合。神山町は、まさにイノベーションを興そうとしているようです。

果たして、東北の被災地に同じようなと取り組みが可能でしょうか。私にはわかりません。いや、その答えを出すのは私のやるべきことではありません。ただ、こういう取り組みの存在と私が感じたことを伝え、そこに関わる人たちを、被災地の人たちに紹介し、つなげてゆくことくらいはできそうです。







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