2013年4月27日土曜日

案件規模の縮小に対処する7つのシナリオ


「案件規模の縮小にどう対処すればいいのでしょう・・・」

先週は、その背景について考えて見ました。今週は、この変化への対処の方法について考えてみます。



■ クラウド・サービス
クラウドへの期待は、今後とも高まります。ならば、これに対応し自らもクラウド・サービスを提供すべきです。

クラウド・サービスには、3つのビジネス・モデルが考えられます。

l   自らがシステム資産を保有し、高いコスト・パフォーマンスでサービスを提供する「クラウド・プロバイダー」
l   第三者の提供するクラウド・プロバイダーのサービスの機能を補完し、より使いやすいサービスとして提供する「クラウド・アダプター」
l   様々なクラウド・サービスを組み合わせて、お客様のニーズに最適化した個別サービスを提供する「クラウド・インテグレーター」

これらクラウド・ビジネス・モデルについては、後ほど詳述します。

■ SaaS
開発を必要としないSaaS(アプリケーションをサービスとして提供するクラウド・サービス)の需要も高まるでしょう。これに対処するためには、自らの得意分野を洗練させ、SaaSビジネスを展開するという選択肢もあります。この場合、必ずしも自分たちがインフラを保有する必要ありません。外部のIaaS(インフラをサービスとして提供するクラウド・サービス)PaaS(ミドルウェアをサービスとして提供するクラウド・サービス)を利用し、その上に自分たちのアプリケーションを稼働させSaaSを提供することも可能です。

■ 内製化支援
ユーザー企業が内製化をすすめようとしても、社内にスキルを持つ人材は限られています。その一方で、SIerには、システム開発に長けたエンジニアが多数います。求める側の要望と提供する側のスキルが、相互補完の関係にあります。ならば、内製化を支援するビジネスを提供してはいかがでしょう。

内製化と言ってもユーザー企業のエンジニアの絶対数は限られており、全てを内部でまかなうことはできません。だから、内製化を支援すれば、そのノウハウは、ユーザー企業の標準となり、結果としてスキルを提供した会社に優先的に仕事をお願いすることになるはずです。

■ マネージド・サービス
これまで派遣業務で行ってきた運用管理業務をマネージド・サービストとして提供することも考えられます。そのためには、運用プロセスの標準化やインシデント管理のための仕組み、あるいは、運用管理を自動化するツールなども駆使し、サービス品質向上とコスト削減に取り組まなければなりません。

特に、「運用プロセスの標準化」については、ITIL準拠などを打ち出し、サービス品質を保証することや、これまでの派遣業務と組み合わせ、よりきめ細かな運用サービスを提供する「ハイブリッド・マネージド・サービス」の提供も考えられます。

また、自ら請け負ったアプリケーションであれば、その運用まで含めたアプリケーションのマネージド・サービスを提案し競合との差別化を図ってはいかがでしょうか。これによりフロー・ビジネスであるアプリケーション開発を、ストック・ビジネスである運用まで囲い込むことがではます。

マネージド・サービスの提供に当たっては、24時間・365日対応が重要な要件になってきます。その理由は、常時接続されるSMDへの対応、さらには、アジアや地球の裏側に広がるユーザー企業のグローバル・ビジネスへの対応のためです。

24365対応は、人事・労務上の問題から躊躇されることがあるようです。ただ、サービスの付加価値を高め、自動化などの対応も進めるなど、工夫と努力次第では、利益率の高いビジネスへと成長させることが期待できます。

■ デザイン・エンジニアリング
ユーザーとのインターフェイスとしてUXが前提となる中、機能を実装する技術力だけではなく、使いやすさや美しさへも配慮し、「使えるアプリケーション」から「使いたいアプリケーション」へ進化させなくてはなりません。そのためには、デザイン・エンジニアの育成が必要です。

デザイン・エンジニアとは、デザイナーとしてもエンジニアとして、お客様に認められる成果を上げられる人材です。例えば、プログラムのソースコードが読み書きできること、加えて、美しいビジュアルや操作性も考慮したデザインを実現できなくてはなりません。Javaのプログラミングもでき、HTMLCSSJavaScriptを駆使し、Photoshopも使いこなすスキルを兼ね備えている人材です。

また、すぐにでもプロトタイプを作ることができなくてはなりません。これまではデザインはデザイナー、プログラムはプログラマーで役割分担をしてきました。しかし、これでは作業のプロセスに手間も時間もかかり、両者がお互いの意図をうまく共有できないままに、結果として、お客様の意図にそぐわないものを提供することになりかねません。スピードと質の両面を担保するためには、デザイン・エンジニアの育成を模索すべきです。

もちろん、このような人材を育成し、組織体制を整備するためには時間も根気も必要です。そこで、このようなスキルを持った企業との連携も模索すべきでしょう。彼等と役割を分業することで、お客様のニーズに応えてゆくとともに、並行して自らのスキルの育成を図ることが大切です。

■ 統合認証基盤構築
パブリック・クラウドが普及すると、ユーザー企業は、社内外の両方のシステム基盤をまたがりアプリケーションを利用することになります。また、SMDの普及は、個人のデバイスを業務でも利用させるBYOD(Bring Your Own Device)も広がってゆくでしょう。このようなニーズに応えるのが、統合認証基盤です。

統合認証基盤は、大きく分けて3つの機能に区分できます。ひとつは、使用するデバイスを管理するMDMMobile Device Management:モバイル機器管理)、ユーザーの属性や、それに応じた利用権限を管理するID管理、ユーザーの利用権限レベルに応じて認証方法を変えることや、利用できるアプリケーションを制限する認証管理に分けられます。

■ コンサルティング
これからの情報システム構築に不可欠な要素として、クラウドを介した高速かつリアルタイムなアプリケーションへの需要が高まってゆくものと考えられます。これは、常時接続などによる利用者の裾野の拡大、センサーによるリアルタイム・データの増加などが背景にあり、これらによってもたらされるビッグ・データへの対応と相まって、新しいシステムの利用形態を考えてゆく必要があります。

また、ビジネスのグローバル化に対応することも必要です。先に紹介した海外での常識を踏まえ、国内だけの常識にとらわれない発想が必要です。それは、アプリケーションやインフラの仕組みや機能だけではなく、海外の拠点や人材、あるいはサービスをうまく活用することを含め、幅広くグローバルを見据えた情報システム戦略の構築が必要になるでしょう。

ソーシャル・メディアへの対応も避けて通ることはできません。ソーシャル・メディアは、単なるコンシュマー向けのコミュニケーション・ツールという域を超え、ビジネス・コミュニケーションの手段として、活用されてゆくでしょう。この変化は、単なる手段の変化と捉えるべきものではありません。人々のライフスタイルやワークスタイルにも影響を及ぼし、価値観の変化さえもたらしつつあります。この現状を理解し、システムの構築に反映してゆくことも大切なこととなります。

● クラウド・ビジネス・モデル

クラウド・ビジネスというと、GoogleAmazonsalesforce.comなどの大手サービス・プロバイダーをイメージされる方も多いのではないでしょうか。確かに、彼等はクラウドというビジネスを主導し、そのトレンドを築いてきたプレーヤーであることに間違えありません。だからといって、彼等のように膨大な設備投資を行い、そのリソースを低コストで提供するというビジネスばかりが、クラウド・ビジネスではありません。

では、クラウド・ビジネスとは何でしょうか。3つのタイプに整理してみました。



クラウド・プロバイダー】
GoogleAmazonSalesforce.comOffice365などがこれに当たります。自分たちが所有するシステム資源や独自のサービスを低廉に提供するビジネス・モデルです。このタイプは、魅力的な機能や性能を高いコスト・パフォーマンスで提供しなければなりません。コモディティ化のところで紹介した「コモディティ・イニシアティブ戦略」は、まさに彼等の戦略です。彼等は、大きな初期投資によりサービスを充実させスケールメリットで広範なお客様を獲得することを目指します。

【クラウド・アダプター
アプレッソのdataspiderISRcloud Gate、グルージェントのGluegent Gateなどはこの一例といえます。クラウド・プロバイダーのサービスはコスト・パフォーマンスにおいて大きな魅力ですが、その見返りとして独自の標準化に対応することが求められます。また、インターネットの介在、マルチテナントなどが前提となりセキュリティへの不安が払拭できないというユーザー企業も少なくありません。このようなプロバイダーの提供するサービスの課題を補完し、これに共生する形でビジネスを展開するというものです。そのため、このような補完機能を持つサービスを提供しなければなりませんから、ある程度の初期投資は覚悟する必要があるでしょう。

【クラウド・インテグレーター】
プロバイダーやアダプターのサービスをお客様の個別のニーズに対応して組み合わせ、お客様個別専用のサービスとして提供するものです。従来のSI事業者が行っているオンプレミス商材を組み合わせたシステム・インテグレーションをクラウド・サービスの組み合わせに置き換えたものと考えてもいいでしょう。このようなビジネスでは大きな初期投資は不要です。しかし、WebアプリケーションやWebサービスの技術に対応できる能力と様々なサービスを目利きできる能力、それらを使って最適な組み合わせを作り上げるプロデューサーとしての能力が必要です。

どのビジネス・モデルを選択するかは、それぞれの企業が置かれている状況によって異なります。その戦略を考える上で、この整理の仕方を参考になればと願っています。


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ITのテクノロジーとビジネスの最新トレンドを体系的に整理して解説いたします。

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毎回、多数のご応募を頂戴しており、すぐに一杯となってしまう可能性があります。もし、参加のご意向をお持ちの場合には、お申し込み前に早めにメール等にてお知らせいただければ助かります。

ご検討のほど、よろしく御願いいたします。

■ Facebookで、是非ご意見をお聞かせください。

2013年4月19日金曜日

案件規模の縮小 どう対処すればいいのか


「最近は、案件規模が縮小し、プロジェクト期間の短い案件が増えてきました。」

SIerの方に話を訊くと、いずれも同じような話が返ってきます。このような話が増え始めたのは、リーマンショック以降のことではないでしょうか。

ITバブル崩壊以降の低迷期を脱し、何とか明るい兆しを取り戻しつつあったまさにそんなときにリーマンショックが起こりました。プロジェクトの延期や中止が相次ぎ、SIerは厳しい状況に追い込まれます。

その後、リーマンショックのほとぼりも冷め、景気も持ち直しはじめましたが、一旦財布の紐を絞めてしまった以上、そう簡単に元に戻すことはできません。特に、企業にとって本業ではないITはコストであり、リーマンショックで緊縮財政が定着した企業にとっては、例え景気が回復したからといって、すぐに拡大する空気はありません。

また、そんな時期に起こった東日本大震災によって、プロジェクトは先送りされ、SIerは再び苦境に立たされます。

このようなIT投資の不連続な凍結や先送りのため、ユーザー企業の情報システム戦略は混乱し、適切な投資のタイミングを失ってしまったとも言えます。

そこで、ユーザー企業は、戦略的見通しのないままにプロジェクトをまとめてSIerに丸投げするリスクを避け、どうしても必要な最低限の業務を選び、分割して発注することで対処しようとしました。また、このような案件の規模の小型化は競合を容易にし、案件単価を下げることにもつながりました。

冒頭の言葉の背景は、このようなことなのでしょう。

また、昨今のクラウドや新たなテクノロジーの進展が、この流れをさらに加速しはじめています。それは、次のような3つの理由からです。

1.       クラウドを利用すれば初期投資を抑制でき、資産を増やすことなく経費として処理できるから
2.       SaaSの利用実績が増え、あえて自社独自の開発やカスタマイズをしなくてもアプリケーションを利用できるようになったから
3.       アジャイル開発の普及、高速開発のためのフレームワークやツールの充実により、短期間、低コストで開発できる環境が整ってきたから

SIビジネスは、もともと効率の悪いビジネスモデルといえるかもしれません。多くのエンジニアが従事していたプロジェクトが終了すると、そのエンジニア達は、次のプロジェクトに従事させなければ、なりません。しかし、そんなに都合良く全員が従事できるプロジェクトを確実に確保できる保証はありません。そのため、どうしても数週間から数ヶ月間、何も稼げないのに給与を払い続けなくてはなりません。このような仕組みが、SIerの利益率を低迷させる原因にもなっています。

この構造的問題に加え、上記にあげた案件規模の縮小と競合、クラウドやテクノロジーの進化は、SIビジネスを益々難しいものにしています。

このあたりの変化を整理したのが、次の図です。



これまでは、お客様の要求どおりの機能と品質を確実に実現することが求められました。プロジェクトも、1年から3年といった長期のものも少なくはありませんでした。しかし、今は、案件規模は小型化し、変更変化に迅速柔軟に対応し、短期間で開発することがこれまでにも増して重視されるようになりました。

システム資産は、自社で保有することが当たり前の時代から、クラウドを利用する選択肢が優先する「クラウド・ファースト」の時代へと変わりつつあります。

開発は、個別対応を前提とし、要件をあらかじめ明確にした上でウオーターフォール方式で開発し、契約は準委任や請負が一般的でした。それが、アジャイル開発の手法や高速開発のフレームワークやツールを駆使して内製化をすすめようという機運も高まっています。また、できれば開発せずに済ませたいということでSaaSを積極的に利用しようという動きも増え始めています。

運用業務は、ユーザー企業がそれぞれ個別に所有するシステムをITベンダーから派遣されたエンジニアによって対応してきました。それが、クラウドになれば、運用業務の一部がサービスに組み込まれています。また、データセンター事業者にシステム資産を預けることも一般化し、複数企業の運用業務にまとめて対応するマネージド・サービスも普及しはじめています。

ユーザーが使うデバイス(エンド・ポイント)は、これまではPCが前提でした。PCは、比較的画面スペースに余裕があります。そのため、クライアント・アプリケーションやウエブの画面は、効率の良い機能の配置が優先されるユーザー・インターフェィス(UI)が求められました。
しかし、スマートフォンやタブレットなどのスマート・モバイル・デバイス(SMD)の普及により、新たなアプリケーションは、SMDにも対応することが求められるようになりました。SMDは、もともと個人利用を前提としたデバイスです。そんなこともあって、機能が使えるだけでではなく、美しいデザインや使うことが楽しくなり、もっと使いたいと思わせることができるインターフェイス(UX)が求められます。また、画面が小さいこともあり、機能を絞り込み、使いやすさにもこれまでに無い配慮が求められるようになりました。ならば、PCを前提にするのではなく、まずはSMDのインターフェイスを作り、PCはその後対応しようという「モバイル・ファースト」の考え方が生まれてきました。むしろこちらの方が、結果としてPCの画面もシンプルで使いやすくなります。

このような変化が生まれつつあるのです。

それでは、ITベンダーは、この変化にどう対応すればいいのでしょうか。こちらについては、次週説明させていただきます。

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