2012年6月30日土曜日

情報システム部門とIT営業の存在意義

情報システム部門が、いま大きな転換点を迎えています。「情報システム部門の存在意義が問われている」。そう言い換えてもいいかもしれません。

自らシステムを所有し、システムの構築と保守のサイクルを回す。そして、ユーザーのお問い合わせに応え、トラブルに対応する。もはや情報システムのない経営も業務もありません。当然、何でもシステム対応が求められます。グローバル展開、業務ニーズ、デバイス環境・・・様々な環境の変化に迅速に応えなくてはなりません。おかげで要望は積み上がるばかりです。しかし、そんなに潤沢な要員を抱えているわけではありません。対応は後手に回ります。

現場や経営はそれを情報システム部門の不作為ととらえるかもしれません。そうやって、情報システム部門は現場や経営からの信用を失い、その権威も低下することになります。結果として、予算の配分は頭打ちとなり要員の拡充もままならず、新しいことにもチャレンジできません。ますます、要望に応えられなくなります。

情報システム部門は、そんなスパイラルに陥っているように見えます。事実、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の調査によれば、情報システム部門の予算は対売り上げ費で見ると10年前に比べて半減しています。情報システム部門の現実を象徴しているかのようです。

1960年代から1980年代にかけてのメインフレームが主役として活躍していた時代、情報システム部門は企業の情報化を牽引してきました。基幹業務がまだまだシステム化されていなかった時代にあっては、情報システム部門のスタッフは業務とシステム技術に精通し、両者の架け橋としての役割を担うプロ集団として、企業内でも高い評価を与えられていました。

しかし、基幹系業務の多くがシステム化されると、今度はできあがったシステムを維持、メンテナンスすることに重点が移り、サブシステムの増殖が始まりました。また、情報システムが業務に広く使われるようになり、その安定稼働の重要性が増し、運用管理業務も増大してゆくことになりました。

維持、メンテナンス、運用管理・・・このような既存システムに関わる業務工数が拡大する一方で、あたらしい業務プロセスに対応したシステム構築は少なくなり、サブシステムという既存システムのコピー・改修の仕事が増えてゆきました。その結果、業務全体を見渡すプロジェクトは少なくなってしまったのです。「業務を知らない情報システム部門」は、こんなところがきっかけだったのかもしれません。

情報システムは業務に不可欠なものになりました。しかし、その一方で情報システム部門のバックログも積み上がり、ユーザーからの要望になかなか応えられないというジレンマも抱えることになったのです。

また、維持・メンテナンスは既存業務システムへの対応であり、情報システム部門が、かつてのようにシステム全体に関わる経験も少なくなって行きました。
1980年代のパーソナル・コンピューターの出現は、このような情報システム部門の権威をさらに失墜させることになりました。

コンピューターが、もはや専門家のものではなく、誰もが使えるようになったのです。これまで何でも情報システム部門に依頼していたユーザー部門も、ちょっとした帳票の集計やレポートの作成ならユーザー自身の手でできるようになったのです。エンドユーザー・コンピューティング(EUC)という言葉が使われるようになったのもこの頃です。またオフコン、ミニコンが普及し、ユーザー部門が独自にコンピューターを購入することも難しくなくなりました。

パーソナル・コンピューターばかりではありません。1980年代は様々なあたらしい技術が普及し始めた時期でもあります。低コストで高性能なUNIXシステム、クライアント・サーバー、リレーショナル・データベースなど、メインフレームの常識とは一線を画す新しい技術が世の中に受け入れられ始めたのです。

これまでメインフレーム=コンピューターであり、その保守や運用管理に大半の労力を割いていた情報システム部門は、このようなあたらしいトレンドに対応することに消極的でした。というより、余裕がなかったのです。その結果、自分たちはこれまで通りメインフレームを主体とした基幹業務システムの維持・保守・運用に専念し、あたらしいトレンドに対応しなければならないときは外部に丸投げすることも普通となっていったのです。もちろん、ユーザー部門もそのことがわかっていましたので、情報システム部門を介すことなく直接ITベンダーと話しをすることも増えてゆきました。その結果、情報システム部門は新しいトレンドに取り残されていったのです。

情報システム資産のユーザー部門への分散、情報システム部門のメインフレームへの引き籠もりは、情報システム部門の権威を一層低下させてゆきました。また、業務全体を見渡す経験の減少は、業務のわからない情報システム部門のスタッフを増やしてゆきました。その結果、「情報システム部門は業務を何も知らない」とユーザーに言わしめることにもなり、ますますユーザー部門からの信頼を失うことになっていったのです。

既存の基幹システムの維持・メンテナンスに専念し、システムの安定運用を維持することは、それ自体大切な仕事です。しかし、あたらしい業務システムを構築するといった前向きな話しではなく、ちょっとした改善や現状維持は必ずしもモチベーションを高めてくれる仕事ではありません。このような状況のなか、情報システム部門は、その権威とやりがいを「技術」にもとめるようになったのではないかと私は考えています。

つまり、ユーザー部門が直接関わることが難しいシステム技術のスペシャリストであることに自らの役割を見出し、そこに存在意義を見出そうという意識です。業務はユーザー部門、情報システム技術は自分たちという壁を自ら築き上げ、それに安住することで、結果として、業務スキル蓄積の機会を遠ざけてきたのかもしれません。

インフラやシステム開発の知識はあっても、業務プロセスを知らない情報システム部門。クラウドの普及は、まさに彼らの存在意義であるインフラと開発の役割を低下させることになります。その一方で、ますます必要性が高まる業務プロセスに役割を果たせない情報システム部門の存在が問われています。

しかし、もうそんなことはいっていられません。情報システム部門は、新たな役割を見いださなくてはならないのです。

クラウドになれば開発の機会は減ってゆくことになるでしょう。また、インフラの維持・運用の必要もなくなります。開発と運用という役割分担も意味を失います。

その一方でITという手段の選択肢は多様化し、複雑化してゆきます。それぞれの業務に最適な組み合わせが求められます。ITが企業や社会のインフラとして存在感を増す中、経営のスピードアップや最適化はITの使い方次第です。つまり、経営のイノベーションをITが牽引する時代です。その戦略的価値に関わることこそ、IT部門の大切な役割となるはずです。

予算に縛られるコスト・センターから投資対効果を意思決定の基準とするプロフィット・センターへの変革にチャレンジせずして、生き残ることはできません。いや、生き残る意味がありません。

IT営業は、そんな情報システム部門の変革に役割を果たしてゆくべきです。情報システム部門のモノとヒトの調達係でいいのでしょうか。お客様である情報システムが変わろうとしています。モノやヒトの仕事から、お客様の変革、つまりイノベーションの提案を、そして、その仕組み作りをお手伝いしてゆくこと。その役割を果たせるかどうかが、今問われています。

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              *** 残席わずかです ***
■ これからIT考える会議 ■
ユーザーと営業がともに考える会議
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【日時】2012年7月5日(木) 16:00-19:00
【会場】新日鉄ソリューションズ株式会社

ユーザーであるお客様とIT営業が、駆け引き相手としてではなく、同じ立場で
これからIT活用あるべき姿考え、語り合うこれまでにはない、全く新しい取り組みです。

参加者100名という人数ではありますが、「ワールドカフェ」 という会議手法使って深い議論おこないす。

是非皆さんご参加お待ちしております。

◎ 詳細とお申し込み ◎
http://www.e-senryaku.jp/20120705/
◎ アンケートお願い ◎
http://japan.zdnet.com/info/35018482/
ご参加有無にかかわらず、ご協力いただければ幸いです。


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このブログのFacebookページを公開しています。みなさんのご意見など、こちらへいただければ幸いです。

2012年6月23日土曜日

クラウド・ファースト

「 「クラウドは従来システムよりも安全」という考え方は、連邦政府の共通認識です。ハードとソフトを所有して自ら運用しているから安全と考えるのは錯覚です。--- 
ITpro

セールスフォースの副社長であるヴィヴェク・クンドラ氏の言葉です。

彼は、2009年に新たに創設された「連邦政府CIO(情報統括官)」に就任、米国連邦政府の情報システム改革を推進した人物で、「クラウド・ファースト(Cloud First)」を提唱したことでも知られています。

彼は情報システムに関わる予算を大幅に削減するとともに、政府の透明性を高め、情報利用の利便性を促進する「オープンガバメント」にも取り組みました。

それらを「クラウド・ファースト」で推進したのです。

連邦政府と比べるなどおこがましいことですが、企業情報システムもまた「クラウド・ファースト」は十分通用するものとなりつつあるように思います。

私は今、2000億円、2000人規模の企業で、情報システム戦略策定に関わっています。そして、この考え方が現実的なものであることを実感しています。

情報システム部門のスタッフは30名、メインフレームで基幹業務をこなしています。PCサーバーは100台、配布されているPCは3000台を超えています。

決して大規模ではありませんが、この人数で全社の情報基盤を支える事は容易な事ではありません。

このような状況にありながら、会社は収益基盤の拡大をめざし海外法人の設立や企業買収を加速しています。そのため、ITガバナンスの強化はこれまで以上に重要なものとなりつつあります。

新たな業務ニーズやスマートフォンなどのユーザーの利便性向上にも対応しなければなりません。また、この会社は工事関係という事もありPCの追加や移設が頻繁に行われます。そのため、ユーザーのPCやネットワークに関わる運用負担も大きな問題となっています。

だからといって、IT予算が大幅に増額される事はありません。こういう現実を考え合わせると、「クラウト・ファースト」が最も合理的な解決策となりそうです。

もちろん課題は少なくありません。しかし、現実に引きずられていては、成果は改善のレベルにとどまるしかありません。大きな改革は不可能です。

現状を一旦棚上げし、自分たちにとっての「あるべき姿」をまず描く事が大切です。そして、あらためて、その「あるべき姿」と現実とのギャプを考える。どうすればそのギャップを埋められるかを追求してゆくと、いろいろと解決策があるものです。

そんな議論を重ねながら描きつつある新たな情報システム戦略は、「IT資産の全面クラウド化」です。メインフレーム、サーバー、デスクトップ、そして、その運用もすべてをクラウド基盤で実現するという筋道が見えてきました。

そんなシナリオをITソリューション・ベンダー各社に示しながら、ご提案を伺っています。しかし、残念ながらクラウドを未だ補完的なソリューションと位置づけ、その真価を十分に理解していないところも少なくないようです。とても残念なことです。

改めてクラウドの真価と可能性について、考えてみてもいいかしれません。世の中は、「クラウド・ファースト」が十分現実な世界となりつつあるということを。そして、それを前提としたビジネス戦略を考えてみるべきです。お客様は、そういう提案を聞きたいと思われているはずです。

参考までに、各社のパブリック・クラウド・サービスの稼働率(availability)をベンチマークしているサイトを紹介させていただきます。

これをみればお分かりのように多くのサービスが高い稼働率を示しています。もちろん、稼働率だけでサービスの善し悪しを評価できるとは思いませんが、ひとつの目安として十分に実務に耐えうるレベルである事がおわかりいただけるのではないでしょうか。そして、何よりも、こういう情報がしっかりと開示されているのもクラウドです。

セキュリティの懸念もないとは言えません。しかし、上記の企業でセキュリティの専門スタッフはいません。また、技術的にわかる人も数名にとどまっています。こんな現実を考えるなら、冒頭の言葉にもあるとおり、専門のスタッフが取り組んでいるクラウド・サービスのほうが安全と考えてもなんの矛盾もありません。

そろそろ、クラウドへの偏見を断ち切り、現実を冷静に見つめてビジネスを考えてゆくべき時代が来たように思います。

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■ これからのITを考える大会議 ■
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7/5(木)、ユーザーの情報システム部門の方とITベンダーの営業がともに集い、ITのこれからを考えます。

IT業界のこれからについて、有志が集まり、思いをぶつ け合い、考え、企画した大会議です。

IT業界にイノベーションが起きるためには?」
「ユーザーの発展に貢献できるITとは?」

をユーザー、IT企業の営業パーソンを中心とした対話の中から明らかにするために100名規模の大会議を開催します。

大人数での会議を実現するために今回「ワールドカフェ」 という会議手法を使って、大きく、深い議論を目指して行 きます。

この大会議の後、何かムーブメントを起こしてみませんか


◎ アンケートのお願い ◎
関連してアンケートも集めています。ご参加の有無にかかわらず、ご協力いただければ幸いです。

フェースブック・ページも開設しました合わせてごんください。


2012年6月16日土曜日

「安心な存在」と「信頼される存在」

「あなたがいうのなら大丈夫でしょう。お任せします。」

お客様にそういわれることこそ、営業の醍醐味だと私は思っています。

「安心な存在」と「信頼される存在」。前者は、「この人なら自分に不利益をもたらすことはないだろう」と思わせる存在です。後者は、さらに積極的に「この人なら自分たちに利益をもたらしてくれるだろう」と期待させる存在です。

お客様と誠実に向き合うことは、営業の基本動作です。それは、自然とお客様に伝わるでしょうし、良い人、すなわち「安心な存在」として認めてもらえるはずです。しかし、どんなに良い人であっても数字をあげられなければ、営業としては意味がありません。

かつて、私が現役の頃、上司によくいわれた言葉があります。「営業の人格は数字だ」。人間としてどんなに良い人であっても数字をあげられなければ、「営業としての人格は劣る」ということです。つまり、お客様にとって、安心な存在であるだけでは、営業としては、失格なのだということです。

だからといって、お客様の利益ではなく、自分の数字というこちらの利益だけを追い求めても、お客様に受け入れられるものではありません。お客様の利益を追い求めてこそ、結果としての数字がついてくるのだと思います。

今、あるユーザー企業の情報システム戦略の再構築をお手伝いしています。そのことで、いろいろなソリューション・ベンダーにご提案をいただく機会があります。

先日、そのうちの一社が提案してくれました。しかし、本当にがっかりしました。一見よくまとまった提案書ではありましたが、お客様の期待に応えるものではなかったのです。一言でいえば、トンチンカンな内容だったのです。

お客様の困ったを解決するのではなく、「自分たちにはこんなことができます。こんな製品があります。こんなにすごいんです」。まあ、自慢話というか、世の中の常識はこういうもので、きっと知らないから教えてあげましょう。そんな、高飛車な印象も受けました。

それに対して、お客様は、大人でした。「確かにこの製品がいいことはわかったけれでも、これでは運用の負担は軽減するどころか、増えるんじゃないでしょうか。」

「確かにそうですが、御社が優先すべきは運用負担の軽減よりも、セキュリティの強化だと考え、この提案をお持ちしました。」

こちらを慮り、期待以上のものを持ってきてくれた・・・と思いたいところですが、結局は自社に適切な解決策がなく、なんとか手持ちの製品を無理に押し込んできた。残念ながら、そんな印象を受けてしまいました。

「お客様の利益ではなく、自分たちの利益を優先しているのですか?」 
申し訳ないのですが、そんな印象を受けたのは、私だけではなかったようです。

もし、適切な解決策がないのなら、それを正直に伝え、考えうる次善の策か、他社の提供する手段を提示すべきです。お客様の立場でお客様の利益を追求する人、つまり、信頼される存在とは、そういうことができる人なのだろうと思います。

確かにこれでは数字にならないでしょう。しかし、それは一時的なことであり、信頼できる存在と認められれば、お客様はきっとまた相談してくれるはずです。そういう関係を多くのお客様で築くことができれば、結果として数字はついてくるものだと思います。

安心(assurance)とは、自分に不利益をもたらさないであろうという自分自身の評価です。それに対して、信頼(trust)とは、自分に利益をもたらしてくれるであろうという相手の能力や人格についての評価です。

「安心な存在」となることは、日常のお客様との関わりの中で、自然と築き上げられることでしょう。しかし、「信頼される存在」になるためには、「決心」と「努力」と「意思」が必要です。そのためには、相手に成功してほしい、幸せになってもらいたい。そういう愛情としての強さがなければ、できないことだろうと思います。

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2012年6月9日土曜日

「情報」の意味を知らない非常識営業とならないために

「なるほど、そういう考え方がありましたね。これはいいですね。」

あなたは、お客様にそう言わせるだけの情報を提供しているでしょうか。私は、営業の存在価値は、そこにあると思っています。

お客様の知っていること、興味のない製品情報を届けたところで、お客様にとってはなんのメリットもありません。「ちょっと、ご紹介したい製品があるんですけど、お時間頂けないでしょうか。」とお願いしても、「ああ、それならホームページのURLをメールで送っといてくれればいいから・・・」と返されるだけです。

お客様に伺い、自社の商品やサービスの説明をすることはできても、お客様に「ハッと思わせる情報」を提供できないようであれば、あなたは「歩くカタログ・スタンド」程度の存在でしかないのです。それでは、営業であることの意味はありません。

そうならないために、どうすればいいのでしょうか。

お客様にとって、魅力的な情報をお届けすることです。では一体どういう情報が魅力的なのでしょうか。まずはこの点について考えて見ましょう。

かけひきの科学(唐津一著)」に次のような記述があります。
「情報とは、それが到着、あるいはそれを入手したとたん、環境を一変させる力を持つ。もちろん到着しないかぎり、なんの力ももないのである。」
Wikipediaには、こんな記述があります。
「情報量は、情報理論の概念で、あるできごと(事象)が起きた際、それがどれほど起こりにくいかを表す尺度である。頻繁に起こるできごと(たとえば「犬が人を噛む」)が起こったことを知ってもそれはたいした「情報」にはならないが、逆に滅多に起こらないできごと(たとえば「人が犬を噛む」)が起これば、それはより多くの「情報」を含んでいると考えられる。情報量はそのできごとがどれだけの情報をもっているかの尺度であるともみなすことができる。」
例えば、提案書や製品説明のための資料についてが考えてみると、それが分厚ければ分厚いほど、情報量が多いと思いがちです。しかし、その中にお客様が知っていることばかり書いてあったとすれば、お客様の意識に何の変化も起きません。逆に薄い提案書であっても、その中にたった一枚のハッと思わせる図表が入っていたとしたら、お客様の意識は大きな影響を受けることになり、きっと真剣にあなたの話を聞いてくれることになるでしょう。

情報理論では、前者のような状態を「情報量はゼロに等しい」といいます。つまり、情報量とは、相手の行動に影響を与える度合いであり、量の問題ではないのです。

「情報量とは相手の行動に与える影響度」であると考えると、もうひとつ注意しなければならないことがあります。それは、相手の期待に対する適合度です。例えば、お客様への提案書にたとえお客様の知らないことが書いてあったとしても、それがお客様にとって関心のない内容であったならば、相手に影響を与えることはあません。こういう情報を世間では、「余計なお世話」や「トンチンカン」といいます(笑)。

では、それが、お客様の期待している情報であり、「ハッと思わせる」ものであったとして、その影響度の大きさは、どのように考えれば良いのでしょうか。

これは、お客様の期待とのギャップの大きさです。例えば、お客様が「このシステムを導入すると毎月100万円のコスト削減が期待できそうだ」と考えているとき、あなたの提案が110万円であれば、10万円分の影響度です。もし、200万円であれば100万円分の影響を与えることになるでしょう。逆に、90万円であれば、10万円分のがっかりです。30万円なら70万円分の失望になります。つまり、「こりゃだめだ、二度とこの営業の提案は聞かないぞ」というネガティブな影響を与えることになります。

つまり、お客様の期待する内容を理解し、それについての提案であったとしても、求めるレベルがどの程度かを把握できていなければ、たいへんなことになるかもしれないのです。

例えば、「経費処理伝票の入力負担を軽減したい」という期待に答える内容であっても、「お客様は紙の伝票を一切廃し、しかもスマホからインターネットを介して入力でき、そのまま会計システムへもデータを受け渡すことができるシステム」を期待しているにもかかわらず、「入力はPCだけで会計システムへは個別に手入力」ならば、お客様はがっかりし、あなたの話など二度と聞きたくないと思うでしょう。

「お客様の期待に応える」とは、よく聞かれる言葉です。しかし、期待に応えるためには、その期待の内容とレベルを知ることからはじめなくてはなりません。そこをおろそかにして、自分のできること、話したいことだけを伝えて、「さあ、どうだ!」とお客様の反応を待つ。これでは、お客様の期待に応えることなどできません。

情報システムに携わるものとして、「情報」の意味をしらないでは、非常識かもしれませんね。そんな非常識な営業とならないためにも、ご参考にしていだければ幸いです。


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2012年6月2日土曜日

負組それとも勝組? やってきた選別の時代

受託ソフト開発会社にとっての最大の問題は、IT投資に見合う効果が表れていないことにある。ユーザーのニーズを的確に把握できていないことを示している。しかも、将来の成長に向けた具体的な施策をまとめ上げられていない。長期ビジョンを描けていないのだ。」・・・ITpro 「受託ソフト開発会社は、もう終わり!」

この記事に書かれていることは、既に以前より言われ続けられてきたことであり、特に目新しいことではありません。しかし、2012年は4月までに88件となり、過去最悪となった2009年を大きく上回る勢いで推移している。」という事実は、「もう時間がありませんよ」と言う、市場からの最後通牒と受け取るべきでしょう。

この業界に長くいますが、これほどまでに変化の大きさを強く感じたことはありません。

変化のない時代など、これまでもありませんでした。だから「世の中が変わったから、うまく行かない」という言い訳はしたくはありません。変わることが前提であり、それに対処することが人生であり、ビジネスであると私は思っています。ただ、その加速度がこれまでの比ではないのです。

確かに、リーマン・ショックの時は、本当に厳しかった。ほんとうにこのままやっていけるのだろうかという絶望感さえ感じていました。また、3.11の時も、大変なことになった、日本はどうなってしまうのだろうかという大きな不安を感じていました。

しかし、本当の変化は、今まさに爆発的な勢いで始まったという気がしています。

今、私は、大手建築業のお客様で「情報システム戦略の再構築」をお手伝いしていす。

「経営者から自分たちの存在意義を強く問われている。」と話される情報システム本部長。彼は、これまでのやり方の延長線上では、解決策は見いだせないという強い危機感を抱かれています。そしてその一方で、このようなお客様の悩みに相談に乗ることすらできないソリューション・ベンダーの存在意義にも疑問を持たれているようです。

経営環境は、リーマン・ショック、3.11、ユーロ危機と歴史的円高と続く積み上げられたプレッシャーにより、これまでのやり方にこだわっていては、この変化を乗り切れないという機運を一気に高めています。まさにカタストロフィカルな意識の変化が、今起きているとみるべきでしょう。

IT業界に目を向ければ、この変化を加速している要因は、ITテクノロジーのイノベーションにあると私は考えています。

近代イノベーション理論を提唱したシュンペーターによれは、「イノベーションは創造的破壊をもたらす」と説いています。

これまで成り立っていたビジネス・モデルが破壊され、コモディティ化したテクノロジーと労働集約的人月単価モデル、請負と称する受託・派遣ビジネス・・・そろそろ限界が来たと言うことでしょうか。今まさに新旧の入れ替わりが始まっているというのが、この倒産件数増加の理由だと考えられます。
旧態依然の受託思想・仕事をもらうばかりの下請体質、さらにSESというインチキ派遣を誤魔化した言葉でシステム屋と言ってきかない人売り体質が通用しなくなるほど、ITインフラ整備の敷居が低くなったということだと解釈しています。
友人が、facebookの私の問題提起に、このようなコメントを寄せてくれました。全く同感です。

私は、クラウド、オフショア、高速開発が、この変化を加速している大きな要因だと感じています。特にクラウドは、大手、中小を問わず、ITインフラの敷居を大きく引き下げ、それぞれの得意分野に集中できる環境を整えつつあります。

これまでは、「総合力」が競合優位の重要な源泉でした。従って、大手ということが、お客様の意志決定の根拠でもあったのです。しかし、高度な運用技術と安価で膨大なシステム・リソースを必要なときにすぐに調達できるクラウド・サービスは、大手しか持ち得なかった競争力の源泉を中小でも同様に手に入れることができるようにしたのです。

つまり、それぞれの専門分野で、高い技術やアイデア、ノウハウを持ってさえいれば、それを武器にして大手、中小を問わず対等に戦える時代になったのです。

お客様は、これまでの常識を疑いはじめています。その一方で、旧態依然とした常識にこだわり、イノベーションを示せないSIerやITソリューション・ベンダーに、お客様の信頼は遠のくばかりです。

シュンペーターは、こうも述べています。「イノベーションとは新結合である。」これまで誰も試みたことのない組み合わせを創り出すこと。それは必ずしも新しいテクノロジーばかりでなく、従来のテクノロジーと新しいテクノロジーの組み合わせ、あるいは、従来のテクノロジーの新たな組み合わせが、お客様の課題解決のショートカットになるとすれば、それもまたイノベーションなのです。

イノベーションをもたらす人を彼は「アントレプレナー」と呼んでいます。そう考えれば、SIerやITソリューション・ベンダーは、様々なテクロジーを使い、お客様の課題解決に最適となる組み合わせを提供するアントレプレナーということになります。

ジョブスばかりがイノベーションを起こすアントレプレナーではありません。もっと身近なところでイノベーションを起こすことは可能です。

この大きな変化の波は、新旧の入れ替えを加速する波です。それをチャンスととらえるか、危機と捉えるか・・・もう時間はあまりないように思います。


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