2012年12月29日土曜日

「つまらない講義」の作り方

「既に知っている話で新鮮みがなく、あまり参考にはなりませんでした。」

先日の講義の後のアンケートにこのようなコメントが書かれていました。これはかなりショックでした。主催者側とは事前の打ち合わせも重ね、それではこの内容で参りましょう、と合意し作り込んだものが、受講者の期待を裏切ってしまう結果となったわけです。

なんと言っても受講者にとっては、貴重な時間を無駄にしたわけですから、「金返せ!」という気持ちでしょう。一方私としても、受講者のプロファイルや研修の趣旨を斟酌し、準備に手間をかけています。それが報われないことへの無念さもさることながら、講義の評価が今後の御依頼の判断材料にもなるわけで、ビジネス・チャンス喪失の危機でもあるのです。

この様な評価を頂く理由は様々ですが、基本的には講師側の責任です。受講者のレベルがどうのとか、研修の趣旨を受講者に徹底できない主催者の責任であるとか、自分以外のところに責任を帰することは容易ですし、気持ちも楽です。しかし、だからといって、一旦下された評価を覆すことはできません。

お金を頂き引き受けさせて頂いた以上、言い訳をしていては、次の仕事はありません。また、改善の余地もありません。

このような事態にならないためには、どうすればいいのでしょうか。自戒を込めて、講師という立場から、できることについて整理してみました。

このブログをご覧の皆様の中には、講師をされる機会をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。そんな方々のご批判も期待しつつ、私なりの考えを紹介させて頂きます。

1.主催者ではなく受講者の立場で考える

研修やセミナーで講師の仕事は、その主催者から依頼されます。あるいは、主催者から依頼された研修会社などが仲介している場合もあります。どちらにしても、主催者と必ず直接面会し、会話をすることが最初です。

主催者は、講義や講演の趣旨について、説明をしてくれるわけですが、これが必ずしも受講者の立場や期待を反映しているという訳ではありません。

例えば、社内研修の場合、総務や人事の方が主催者となられている場合、受講者の現場と意識に隔たりがあることを覚悟すべきでしょう。そのような意識の隔たりを意識したならば、受講される方の部門責任者や受講予定者の代表者との面会をお願いすることにしています。

もちろん、総務や人事の方でもそのあたりを良く理解されている場合や、自分自身が現場経験を持たれている方も少なくありませんので、これは全てに当てはまるわけではありません。ただ、現場は日々刻々変化しています。ですから、主催者のお話をしっかりと伺い、それを仮説として、可能な限り受講者の現場に近い方と会話して検証することが理想だと思っています。

また、対外的なセミナーで講演をさせて頂く場合は、マーケティングや販促などのスタッフが主催者である場合があります。そういう場合も、その商品やサービスを販売されているお客様と会話している営業やパートナーの方と話をし、現場の感覚を身近で感じる機会を作るように努力しています。

主催者は、こちらを慮って、簡潔にわかりやすく整理して話をしようとしてくれます。それはありがたいことなのですが、それはその人の立場で解釈したフィルターがかかっています。実際に訊いていると、現場は全く違うところに問題意識を持っている場合があります。ここを理解し、感じ取り、そこに講義の焦点を合わせなければ、受講者を満足させることはできません。

常にこのような対応ができる訳ではありません。ただ、可能な限り、そのような機会を作って頂けるようにお願いをしています。もし、できない場合でも、私が経験的に感じ取った疑問や現場に確認して欲しいことなどを託すようにしています。

このようなことをして、実際に講義を受けられる皆さんのプロファイルを知り、目線に近づくことが大切だと思います。講義のテーマを考え、内容を作り込むときに最も大切な視点となるからです。

このような視点を持つことが、なぜ大切かと言えば、それは「相手の知りたいことを伝える」ことが、講義や講演の目的だからです。「自分の伝えたいことを伝えること」ではないからです。

「せっかく資料作ったので、とにかくそれを伝えたい」という独りよがりの講義は、講師としての自覚が足りません。講師は、受講者に喜んでもらえてこそ、お金を頂けるわけです。自分の知識をひけらかすだけなら、それはカラオケと同じであり、自分でお金を払うか、せめて無料でお引き受けすべきでしょう。

相手の知識のレベルを知り、相手の思考の動線を知り、相手が何を知りたいのかを知る。これらを知るためには、受講者に近づく以外方法はなのです。

2.美しい資料を作る

「内容さえしっかりとできていれば、資料の美しさは化粧であり、必ずしも追求する必要は無い。」

私はこの考えには反対です。徹底して美しさを追求する。それは、必ず内容を伴うからです。

そもそも「内容」とは何でしょうか。私は「物事の本質」であると思っています。講義や講演は限られた時間の中で完結させなくてはなりません。これは書籍とは大きく異なるところです。また、人間は同時に多くの情報を与えられると、どこが重要なのかを判断することができません。

よく見掛ける「ここに全部書いてあります」という資料は、講義や講演の資料では、最もレベルの低いものです。これでは、何が重要かの判断を受講者自身にゆだねているようなもので、講師の力量は何も発揮されていません。

あるいは、このような資料を使って、「ここが重要な点です」と語る人もいます。ならば、そこだけを描き出し、あとは参考資料にするということをなぜしないのでしょうか。これは、講師の手抜きです。

重要な点とは、「物事の本質」です。それが理解できているかいないかは、資料を見れば分かります。情報量が多く、整理されていないと感じる資料を使っている講師は、物事の本質が理解できていないのです。あるいは、理解していても、それを説明できる自分の言葉を持っていないというべきかもしれません。

自分では分かっている、その情報を使って様々な判断や仕事をこなしている。その分野で一流であっても、それを説明できないとなれば、それは講師としては失格です。講師の能力とは、その知識を使って仕事ができることの能力とは同じではないのです。

良くある話ですが、自分が知っていることは、他人も知っているという前提で話をする人がいます。あるいは、そういう前提知識を持たない人が悪いのであって、わからなければ分からないでしょうがない、と考えて話す人がいます。

確かに、そのような講義もあるわけで、この考えを一概に否定するつもりもありません。ただ、このような考えの持ち主は、往々にして前節で述べたように、「相手の知りたいことを伝える」という意識をもっておらず、「自分の知っていること、伝えたいことを伝えるだけ」になっていることがあります。そのような人の講義は、たとえ内容が網羅されていても、講義として高い評価をいだくことは難しいでしょう。

「美しい資料」とは、このページに込めるメッセージを絞り込み、何を伝えたいかをはっきりと意識して、それだけを描いた資料です。それぞれのページに込められたメッセージは、そのページで完結させることが理想です。一枚にたくさんのメッセージを詰め込もうとする一体そのページは何を伝えようとしているか訳が分からなくなります。例え、口頭で補っても、それは資料と一致しませんから受講者は混乱するだけです。

物事の本質を追究し、それをメッセージとする。それを修飾し、補完する最低限の情報を配置する。そのためには、図形の配置やフォント、色使い、全体のレイアウトなども大切な要素です。つまり、伝えたい中心となるメッセージを浮かび上がらせるように幾何学的、色彩学的に配置しなければなりません。

また、情報量が多く、引きつける美しさがなく、どこに目線を定めればいいのか分からないような幾何学的な構成を伴わない(簡単に言えば、ぐちゃぐちゃな)資料は、受講者の集中力を維持させることはできません。

細かいことを言えば、タイトルの形式や文字フォントが統一されていない、用意されているテンプレートをはみ出し、無視して内容が描かれている・・・など、表現に気配りのない「汚い」資料は、人を不快にさせます。

このようなことができるようになるには、それなりの経験を積む必要があります。ただ、学ぶ手立てはいくらでもあります。もっとも効果的な方法は、美しい、かっこいいと感じる他人の資料をまねることです。そのような資料は、ネットにいくらでもあります。そこから自分の感性に合うものを見つけては、まねしてみることです。それが最も手っ取り早い方法でしょう。

物事の本質を追求する。それをそのページのメッセージとする。それを浮かび上がらせる配置や構成を工夫する。資料は、自ずと「美しさ」を放つようになるはずです。

つまり、「美しい資料」とは、受講者に優しいのです。そこには、受講者への愛情があるのです。つまり、「汚い資料」は、受講者への愛情の欠如でもあるのです。自分たちに愛情を持たない講師から話を聞くことは、いやいや養子にされた継母から、説教を聞かされているようなものです。耐えるしかないのです。

3.講義をエンターテイメントにする

先日あるITベンダーの製品説明セミナーに出席しました。そこで、マーケティング部門の製品担当の女性が、製品の概要を説明してくれました。私は、そのひどさにあきれてしまいました。

何がひどかったかなんて、あげればキリがありません。まず、声が小さい、会場に目線を向けず演台の机の上をずっと見ている、抑揚がなく資料の棒読み、資料に書かれている以上の情報が無い、息継ぎのタイミングがおかしい・・・などなど、ほんとうに苦痛でした。

そのセミナーが有償であろうが無償であろうが、お客様に貴重な時間を使って頂いているということの自覚と責任感がないのです。

Presentationと言う言葉があります。pres præ=前にという接頭辞であり、presentとは現在という意味があります。また、en esse=be動詞のラテン語です。つまり、人々の「前に」「現在」「在る」から Presentation なのです。平たく言えば、「現在、そこにいることを示す」と解釈することができます。

残念ながら、彼女のPresentationに彼女の存在する意義は感じられませんでした。資料を見れば十分です。つまり、プレゼンテーションの目的を果たしていないのです。

プレゼンテーションも、講義も、これは双方向のエンターテイメントでなくてはなりません。もちろん、それは常に受講者と言葉を交わすという意味ではなく、相手の反応や様子を伺いながら、それにあわせて、話の内容やペース、声の強弱、質問やジョーク、話をする位置、沈黙・・・などを駆使する行為です。

例えば、うとうとしている人が居るとします。そういうときは、その人のそばに立って話をしてみるとか、その人の隣の人に質問します。

少し、難しい話をして、疲れたぁ、といった顔をしている人が多くなってくると、「疲れたでしょ、お気の毒さま」なんて、言ってみたりします。

また、質問を求めてもなかなか出てこない時は、「質問を聞けばその会社の実力が分かりますねぇ」などといい、「じゃあ、この会場で一番実力ある人って、どなたです?」などと会場に問いかけます。すると、特定の人に指先が集まります。そして、お名前を伺い、「じゃあ、吉田さん、あなたが会社の代表に選ばれましたので、会社の実力を証明してください」などといいます。すると、ええ・・・なんて顔をするのですが、案外まともな質問をしてくれるものです。

沈黙も時には必要です。例えば、こちらが調子よくしゃべっているとき、こちらもついつい周りを見失っていることがあります。そういうときは、必ずと言っていいほど、会場の集中力は低下しています。

あっ、いけないと気付くと、その流れを一旦壊さなくてはいけませんので、沈黙をはさむことがあります。すると、受講者は何事かとこちらを向き、一気に集中が戻ります。

特に強調したいメッセージを伝えるときは、その前後で声を小さくし、伝えたいメッセージを大きく、ゆっくりと語ります。そうすれば、何が重要であるかが、自然と相手に伝わります。

すこし、難しい話が続き、緊張感が張り詰めているとき、こんな質問でその空気を壊すことがあります。

「今どきスマホも持っていないなんて、銀座四丁目をスッポンポンで歩いているくらい恥ずかしいことですよ」と。そして、「ところで、この会場には、そんな人は居ないですよね・・・念のため、持っていない人、手を上げて頂けませんか?」なんて言ってみます。すると、何人か手を上げます。ワッと笑いが巻き起こります。

・・・などなど、あげればキリはありませんが、こういう双方向の関係を演出することこそ、講師の存在意義であり、受講者に時間の対価を頂くことへの責任であると思っています。

もちろん、このような行為は、前節で述べた内容があっての話です。それがなければ、講義の意味がありません。あくまで、これは演出であり、内容を理解して頂くための集中力の維持、心の抵抗の低減、共感の創出のための行為なのです。

「いい講義でした」とご評価頂くためには、内容と演出の相乗効果が必要です。内容だけであれば、だれがやっても一緒であれば、この世界でお金をもらうことはできません。

また、相手との対話を忘れなければ、「なんか違うぞ」という空気を感じ取ることもできます。その時には、講義の内容の力点を変えることや、時間配分を変える、あるいは、別の資料を使って別の話をする、などということも可能になります。

このような対話こそ、講演というパフォーマンスをエンターテイメントにするための基本と言えるでしょう。

「既に知っている話で新鮮みがなく、あまり参考にはなりませんでした。」という、冒頭のコメントは、現場を感じることを怠り、対話を怠った講師の責任です。また、作った資料も、こちらとしては、メッセージを絞ったものだと思っていたのですが、相手の知りたいことではなく、この程度で十分だろうという、自分の経験にあぐらをかいた独りよがりだったと言うべきでしょう。高慢なのです。


すみません、長い文章になってしまいました m(_ _)m 

正直に申し上げれば、こんなコメントを頂いたことは、私にはかなりショックでした。だから、あらためて原点に立ち返りたかった、というべきかもしれません。そんな私事にお付き合いさせてしまい、申し訳ありません。

いつも、ここに掲げたようにできているわけではありません。だからこそ、先の手厳しいコメントを頂戴したわけです。自戒を込めて、書かせて頂きました。

これを他山の石として、皆さんのお役に立てて頂ければと願っています。

それでは、皆様、良いお年をお迎えください。

■募集開始■ 第12期 ITソリューション塾 ■

「自社製品の知識はありますが、世の中の常識となると、うまく説明できません。」
このようなことで、お客様の信頼を手にすることはできません。
  • クラウドと仮想化の違いが説明できません
  • ERPは知ってるけれど、BPR,BPR,SOAとの関係は説明できません
  • HTML5とスマホやクラウドの関係は説明できません

世の中の常識に自社の製品はどう位置付けられるのでしょうか、あなたの提案は、世の中の常識からから見て妥当なのでしょうか・・・

プロとして自信を持つこと、そのための取り組みです。

2013年2月6日から4月17日までの全10回、毎週水曜日の夜に開催します。これまでも、多くのSIerやITベンダーの皆さんにご参加頂きました。また、ユーザー企業の情報システム部門からもご参加いただきました。

詳しくは、こちらをご覧ください。

なお、会場の制約上すぐに満席となりますので、もし未決定ながらご意向がある方は、こちらにお知らせください


参加者募集■ 2013年1月22日(火) 企業の変革をITで実現する大会議 ■

ユーザー企業の変革の流れを感じて、どう動くか? 

そんなことを本気で考えるIT企業の「イノベーター」たちのための大会議です。 

2012年7月5日。ユーザー企業、IT企業のビジネスパーソン 100名が集まって両者の接点である『IT』の活用を進めていくために、それぞれの立場でどのようにあるべきかを3時間議論し続けました。そして、参加者の心の中で課題が明確になりました。 

そして、2013年1月21日。ユーザー企業のCIO、情報システム部門、その他ITユーザー部門の方々が集まって、「ユーザー」としてどのようにイノベーションに取り組んでいくかを大会議を開催します。

---> ユーザー企業側の方はこちらからお申し込みください。

その議論した結果を受けて、翌日のこの1月22日にその変革の意識にITを提供する側として、どのような姿勢で向き合っていくかを大会議で議論しています。

IT企業の皆さん、是非ご参加ください m(_ _)m 

詳しくは、こちらをご覧ください。

■ Facebookページに、皆さんのご意見やご感想を頂ける場所を用意いたしました。よろしければ、お立ち寄りください。

2012年12月22日土曜日

「全ての道はクラウドに通ず」それは、SIビジネス衰退への道?

「全ての道はローマに通ず」という言葉があります。たとえ手段は違っても、物事が中心に向かって集中することのたとえとして使われる言葉です。

古代ローマ帝国が全盛を極めた時代、世界各地から帝国の首都ローマに通じる道が整備されたことを誇り語られたものと言われています。

そして、今、「全ての道はクラウドに通ず」と言っても過言ではないほどに、クラウド・コンピューティングはITを語る上で大きな存在となっています。

しかし、クラウドが米国のビジネス文化や価値観のもとで生まれたこと、つまり、クラウドという帝国の首都が米国にあることを、私達は理解しておかなくてはなりません。つまり、米国におけるクラウドの価値は、日本における価値と同じではないのです。

SIビジネスを考える上で、この違いは大きな意味を持っています。そして、この違いを踏まえ、クラウドをSIビジネスの武器としてゆくためには、どのようなシナリオを描けばいいのでしょうか。今日はこの点について整理することにします。

1.クラウドのもたらす生産性の向上はSIと利益相反の関係にある
日本では、調達や構成変更・運用管理における作業の多くがITベンダーに任され、その都度見積もりをとり発注するという手続きがとられています。そのため、ものの調達や作業の開始が、数週間、あるいは数ヶ月先になることもあります。
一方、クラウド・コンピューティングでは、「セルフ・サービス・ポータル」と言われる構成や設定を行うメニュー画面から行うことができます。つまり、システムの利用者自身が、この画面を介して設定するだけで、必要とするリソースを即座に調達することや構成の変更ができるのです。この仕組みによりエンジニアの生産性は著しく向上します。
エンジニアの生産性向上は、米国においては、ユーザーに直接的な価値をもたらします。それは、ITエンジニアの72%がユーザー側に属しているからです。
一方、日本においては、ITエンジニアの75%ITベンダー側に属しています。そのため、このような仕組みはITベンダーの生産性向上になります。しかし、これは、ビジネス的に見れば案件規模の縮小です。また、米国のように、お客様自身がリスクテイクするのではなく、ベンダーにリスクを負わせる構図が定着している我が国においては、ベンダーから見れば利益相反の関係となります(詳しくは、こちらの記事をご参照ください)
また、ユーザーも自身のリスク負わずベンダーに任せることが、これまでは当たり前でした。結果としてユーザーとベンダーは相互に利害が一致しています。このような意識が、我が国におけるクラウドの普及の足かせとなっているのではないでしょうか。
2.「オープン」とは「プロプライエタリ」へのレジスタンス活動
エンジニアの多くがユーザー企業側に籍を置く米国において、オーブン・ソース・ソフトウエア(OSS)のコミュニティには、ユーザー企業のエンジニアが積極的に関与し、ユーザーの立場から影響力を行使しています。
このような取り組みは、プロプライエタリに握られた主導権を、ユーザー自身の手に取り戻そうとするレジスタンス活動ということができるのです。
ベンダー・ロックインを嫌い、真にユーザーにとって必要な仕組みを構築する自由を手に入れる。それが「オープン」の旗印なのです。
OpenStackCloudStackなどのオープン・クラウド基盤に関わる活動もまた、vmwareMicrosoftなどのビッグ・ベンダーにクラウドの主導権を握られることへのレジスタンスとして生まれた活動なのです。このような動機付けは、結果としてオープン・クラウドの普及を促す強い原動力となっています。
このような考えが広く受け入れられている米国においては、プロプライエタリ側も「オープン」を無視することができません。そのため、vmwareが自身の対抗としてはじめられたOpenStackコミュニティのスポンサーとして参加していることや、Microsoftが新しいWindows Azure Platformにおいて、Hyper-Vをサポートし、Linuxへの対応などオープンに積極的にコミットしていることをアピールしているのは、このような背景があるからです。
3.日本的SIerという業務形態の特殊性
我が国においては、システムのインテグレーションの実務をSIerが担っています。しかし、米国ではユーザー自身がその役割を担っています。これは先に述べたエンジニアの人数比率の違いもあるのですが、CIOITのスペシャリストであることも大きな理由としてあげられます(詳しくは、こちらの記事をご参照ください)
我が国の場合、CIOの多くが財務や経理、総務などの役員と兼務であり、ITについての経験がなく、ITに関する知識やスキルが乏しいということは珍しいことではありません。そのため、ITの実務は配下の情報システム部門に任せています。つまり、ITのイニシアティブを経営のトップラインが掌握しておらず、戦略的な活用を育む環境が整っていないのです。
そのためシステムの構築を自ら主導する力が乏しく、クラウドに限ったことではありませんが、ITを戦略的につかうというメカニズムが、ユーザー主導では起こりにくい構図ができあがってしまっています。
一方、米国におけるCIOは専任のITスペシャリストであり、経営のトップラインとしてIT活用のリーダーシップを発揮します。経営のトップラインに居ることは、組織の人事やルールにも関与できる立場にあり、ITと経営を融合した戦略的な情報とシステム活用の陣頭指揮に立てる立場にあるのです。従って、先に説明したクラウドのユーザーにとってのメリットについても良く理解しており、これを積極的に活用していこうというモチベーションも高く、それを主導する権限も持っています。
米国において、クラウドが積極的に活用される背景には、このようなCIOのイニシアティブがあるのです。

米国発クラウドが、どのような背景のもとに生まれ、それが、日米において異なる価値に結びついていることが、おわかり頂けたのではないでしょうか。

では、我が国のSIビジネスにおいて、どのようにクラウドを活用してゆけばいいのでしょうか。これは、上記のようなビジネス文化の違いを、むしろチャンスとして積極的に活用するという発想が必要であるように思います。



フローのSIをストックのITOに拡げるビジネス基盤」と捉えて見てはどうかと、私は考えています。

ITO(IT Outsourcing)基盤としてクラウドを考えると、オンプレミスにはない高い柔軟性と生産性が期待できます。また、初期投資コスト(CapEx)を抑えることができます。さらに、従量課金を前提にすれは、運用・維持に関わるコスト(OpEx)ITOサービスの利用料金の中に変動費として組み込むことができます。

つまり、構築だけのSIから本番実行のための基盤と運用管理業務を一体化したサービス提供が容易になるのです。

従来であれば、このようなサービスは、資金余力のある大手SIerが自ら設備を持って提供する以外、方法はありませんでした。しかし、クラウドを使えば、システム資源を初期投資リスクなしに、しかも従量課金で外部から調達することが可能となり、中小のSIerでも十分にサービス提供が可能になるのです。

ITエンジニアの構図が日米で大きく異なっていること、その前提の上で生みだされたクラウド・コンピューティング。この違いを今更変えられるものでありません。しかし、この違いは、正しく理解すれば、クラウドはSIerにとってビジネスの強力な武器になり得るのです。

SIビジネスの「全てはクラウドに通ず」る』と考えれば、逆転のシナリオを描くことが可能になるかもしれません。

参加者募集■ 2013年1月22日(火) 企業の変革をITで実現する大会議 ■

ユーザー企業の変革の流れを感じて、どう動くか? 

そんなことを本気で考えるIT企業の「イノベーター」たちのための大会議です。 

2012年7月5日。ユーザー企業、IT企業のビジネスパーソン 100名が集まって両者の接点である『IT』の活用を進めていくために、それぞれの立場でどのようにあるべきかを3時間議論し続けました。そして、参加者の心の中で課題が明確になりました。 

そして、2013年1月21日。ユーザー企業のCIO、情報システム部門、その他ITユーザー部門の方々が集まって、「ユーザー」としてどのようにイノベーションに取り組んでいくかを大会議で議論した結果を受けて、翌日のこの1月22日にその変革の意識にITを提供する側として、どのような姿勢で向き合っていくかを大会議で議論しています。

IT企業の皆さん、是非ご参加ください m(_ _)m 

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2012年12月16日日曜日

お客様の3年後に責任を持つ仕事

「モバイルねぇ・・・確かに、やらなきゃいけないんですけどね、案件単価も小さいし、もうけも少ないし、なかなかできる人間もいなくてねぇ。検討はしてるんですけどね、もうちょっと世間の様子を見ながら、考えようと思ってるんですよ。」

ある中堅SIerの経営幹部からこんな話を伺いました。

「わかってないなぁ (0)」、のどから出かかった言葉を呑み込まざるを得ませんでした。

今を何とかしなければならない経営者にとっては、直ちに収益を期待ができないモバイルにリソースを傾けることに不安があることは理解できます。しかし、確実にマーケットが変わろうとしている現実を直視せず、これまでの常識の延長線上にビジネスが存在するという思い込み、いや、思考停止は、むしろ大きなリスクであることを理解すべきです。

「まあ、具体的な案件があれば、うちも動くんですけどね。あんまりそういう話しもないしねぇ。」

ますますもって、この方の非常識に、いらいらしてきてしまいました。

そんなことは当たり前の話しです。「モバイルだったら、うちも真剣に取り組んでいるんです。例えば・・・」と言わない事業者に、お客様が相談するはずもありません。

黙っていても、お客様から仕事を頂ける時代が終わりを告げている今になっても、「獲りに行く」遺伝子がいっこうに育っていないところに、残念ながら未来はありません。



このサイトに掲載されているチャートを見ると、既にスマートフォンやタブレットの出荷台数がPCを上回っていることや、2015年には、インターネット・アクセスの85%がモバイルになることが示されています。

※ このサイトは Agil Cat - in the Cloud さんにご紹介頂きました。

先日、公表されたIDCのレポート「2013 国内IT市場の主要10項目」には、次のような記載がありました。

2013年はマラソンに例えれば、先頭集団がペースを上げ、脱落するランナーが出始める時期にあたる。第3のプラットフォーム(小職註: モバイル・プラットフォームのこと)は、すでに市場を支配し始めている。ITベンダーは既存ビジネスとの競合があるとしても、第3のプラットフォームへの事業シフトを実行に移す必要がある」

確かに、モバイルは案件単価も小さく、それだけを見れば儲からないかもしれません。しかし、マーケットがこの方向に動き始めている以上、どう対処するかを真剣に考え施策を打つべきは論を待たないでしょう。モバイルという入り口を獲らなければ、バックエンドの開発や運用など、稼げるところも獲れないと言うことをなぜ考えないのでしょうか。

ITビジネスは、お客様の3年後に対して責任を持つ仕事です。モバイルに限らず、ITの3年後がどうなるかを説明できないSIerに、お客様は期待しません。

ITビジネスに限った話ではありませんが、これからの事業戦略を考える上で注目すべきは現在の市場規模そのものではなく、その加速度、すなわち成長率であり、トレンドメーカーたちの製品発表やM&Aなどの未来を先取りする様々な動きの活発さです。

この視点から見れば、モバイルやビッグデータ、SNSSDNなどの市場は、市場規模こそまだまだですが、その加速度には目を見張るものがあります。そういうところで、いち早く存在感を示し、将来の市場の成長に備えることが、変化と競争の激しい業界の中で、生き残ってゆく術であることは言うまでもありません。

「そうはいいますが、簡単なことではないですよ」、そんな声も聞こえてきそうです。特に中堅中小の企業には人的、資金的な余裕がありません。その通りだと思います。だからこそ、経営者はトレンドを知り、自分たちの立ち位置を考え、最もふさわしい決断をしなければならないのです。その経営者が、トレンドを学ぶことを怠り、これまでの成功体験がそのまま使えると思考停止に陥っている。これでは、部下がかわいそうです。

人売りビジネスが「じり貧」であることは、既に体感されている方も多いはずです。例え人数的需要は維持できても利益の確保はますます難しなるでしょう。だからこそ、トレンドを見据えた方向に向かわなくてはなりません。そして、その時間的余裕は、あまりないということを肝に銘じておくべきでしょう。

IDCのレポートに限らず、年末年始にかけて、来年を予測するレポートが、これからいろいろとでてくるでしょう。しかし、それらを見るまでもなく、大きな流れは見えているのです。

ドラッカーが、次のような言葉を残しています。

「既に起こり、後戻りのないことであって、10年後、20年後に影響をもたらすことについて知ることには重大な意味がある。しかも、そのような、すでに起こった未来を明らかにし、備えることは可能である(ドラッカー「経営論」)。」

「すでに起こった未来」を知り、それに対処することが、経営者の役割であると彼は語っています。

そのためには、まず「すでに起こった未来へ」の流れ、つまりトレンドを知ることに関心を持たなくてはなりません。トレンドとは、「時流」であり、未来への道筋を示してくれる流れです。

そして、自分たちの立ち位置を定めることです。得意不得意、これまでの経験、そんな中で、自分たちの果たすべき役割について、考えることです。

そして、「すでに起こった未来」に向かう流れに自らをゆだね、その船頭として舵を取ることこそが、経営者の役割ではないでしょうか。そして、その流れにお客様を乗せることこそ、営業という仕事の大切な役割なのだと思います

流れに乗ることを怠り、「すでに起こった未来」とは、別のところに行き着いていたと気付いても、それは後の祭りです。

今の時代の変化は、これまでの常識の延長線上だけでは、理解できないことなのかもしれません。だからこそ、お客様も迷っています。そこに道を示し、お客様を導いてゆくという役割を担うことが、自らの存在感を示す方策なのだと思います。

お客様の3年後に責任を持つ。それは、とりもなおさず、自分たちの3年後に責任を持つことでもあるのです。

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2012年12月8日土曜日

どうすればコモディティを武器にできるか

「御社の新しいデータセンターは、首都圏近郊では最もハイスペックです。しかし、ここからわずか数キロ離れたところにも同様にハイスペックなデータセンターがあります。この両者の違いと、なぜ御社のデータセンターが優れているかをご説明いだけるでしょうか?」

先日、あるITソリューション・ベンダーでの講演でこんな問いかけをしてみました。しかし、明確な回答を頂くことはできませんでした。

PCサーバーの違いを説明することはもっと難しいかもしれません。
HPIBMDELNECと・・・どこが違うのでしょうか。プロセッサーはどこもIntelOSWindows、データベースはOracle・・・、違いを出そうと各社努力はしているものの、ユーザーからみれば甲乙つけがたく、「どれを買っても同じ」という状況です。

クラウド・サービスもIaaSについては、数年前までは、まだまだ進化の途上にありました。そのため、特徴や機能の違いは明確でした。しかし、今となっては、その違いは曖昧なものとなりつつあります。

これは、決して技術的に退化したわけではありません。それぞれが切磋琢磨し、高い完成度を目指した結果、技術的に飽和してきたこと、そして、普及が進むことで規格化がすすみ、どれも個性を失い、差別化できない状況になってきたのです。

例えて言えば、粟・稗などの「雑穀」と「白米」の違いから、どれも美味しい白米となり、「コシヒカリ」か「あきたこまち」程度の違いへと変わってきたのです。

しかし、その一方で、PCサーバーやクラウドの存在感は高まり、ビジネスや生活において無くてはならない存在となりました。

どれを買っても同じ、しかし、無くてはならない存在。これが、「コモディティ(Commodity)」です。

「コモディティをどう売るか」。ここにITソリューション・ベンダーの大きな課題があります。




まず、前提として、コモディティを使いこなす高い技術力が必要です。テクノロジーを理解し、そのトレンドを見極め、最適なものを選択できる目利き力や構築力が求められます。この技術力を基盤とすれば、3つの戦略を考えることができます。

まず、最初は、「コモディティ・イニシアティブ戦略」です。
コスト・パフォーマンスを徹底追求して、コモディティにおける競合優位を確保する戦略です。これは相当に覚悟のいる戦略かもしれません。それでも、この戦略に成功すれば、例えばAmazonのように、大きな市場を確保し、自らをデファクト・スタンダードとすることが可能になります。

次は、「コモディティ・ソリューション戦略」です。
お客様の業務や経営の視点からお客様に最適化されたコモディティの利活用を提案し、それを利用してアプリケーション・システムやIT基盤を高いコスト・パフォーマンスで構築することで競合優位を確保する戦略です。 
例えば、AmazonGoogleを基盤として利用し、お客様に個別最適化されたアプリケーション・システムを構築します。場合によっては、その運用まで含めて受託するアプローチです。もし、自社で提供するクラウド・サービスやマネージドサービスなどのITO基盤があれば、そのITO基盤そのものを売るのではなく、お客様の個別の経営目標の達成や課題解決の方法を提案し、結果としてITO基盤が売れるというシナリオを描くことです。 
コモディティ化したものは、それ自身で明確な競争優位を見出すことは困難です。ですから、上流からアプローチして、結果としてコモディティを売るというシナリオを描くしかありません。ただしこれには、お客様の業務や経営、あるいは、システム全体の企画や戦略を描ける能力が必要となるでしょう。

最後は、「コモディティ・サービス戦略」です。
コモディティを積極的に活用し、蓄積した業務ノウハウやシステム・ノウハウを先鋭化して、魅力的なサービスを自ら提供することで競合優位を確保する戦略です。 
例えば、ERPの業務ノウハウを駆使し、AmazonIaaSであるEC2上にERP SaaSを構築、これを自社のサービスとして提供するアプローチです。 
IT基盤は従量課金で手に入りますので初期投資リスクを抑えることがてきます。業務ノウハウが十分にあれば、そこで差別化することができるはずです。また、グローバルに標準化された基盤であれば、これまでの国内をお客様とするだけではなく、広く世界にお客様を拡大することが可能となるでしょう。飽和した国内市場に頼るだけではなく、グローバル・ビジネスを展開する術を手に入れることもできるわけです。

コモディティ化の流れを避けることはできはません。たとえ今はコモディティではなくても、それが「無くてはならない存在」となれば、いずれはコモディティ化します。

コモディティは、必要があるからこそ存在します。つまり、市場は確実にそこに存在するのです。問題は、その中で自らの立ち位置を明確にすることです。

コモディティ同士をぶつけ合い、価格競争を強いられる状況から脱却するには、コモディティをどのようにすれば武器にできるかを考えなくてはなりません。ここに掲げた3つの戦略は、そんなシナリオを考える切り口とならないでしょうか?


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2012年12月1日土曜日

クラウドの都市伝説に思考停止している残念な人々

「クラウドでビジネスを再発明する」

米Amazon Web Service(AWS)が、先日ラスベガスで開催したカンファレンス「AWS re:Invent」のタイトルには、このような思いが込められているそうです。クラウドは、まさにビジネスの新たな道筋を生みだしつつあります。

クラウドの当たり前が、わずか一、二年の間に大きく変わっています。それにもかかわらず、この変化に目を向けることなく、旧態依然としたビジネス・スタイルを踏襲している企業は少なくありません。

それは、決して、売る側だけではなく、ユーザー企業もまた、これまでのやり方の延長線上で物事を解釈しようとしていることにおいては、何も変わりはないように思います。

  • クラウドは信頼性が低いから
  • セキュリティが保証されないから
  • 運用管理が不透明で安心できないから

クラウドについて、こんな都市伝説が、未だまことしやかに語られています。そんな話を聞くと、勉強不足、新しいリスクを背負い込むことへの忌避、そして、これまで蓄積してきたスキルが使えなくなることへの不安であり、言い訳と聞こえてしまうのは、私の耳が遠くなったせいなのでしょうか。



以前にも紹介したクラウド・サービスのベンチマーク・サイト「Cloud Harmony / Availability Report for Last 90 Days」を見ると、主要なクラウド・サービスの多くが、uptime(最後にコンピューターが起動してからの経過時間) 100%を維持しています。

このベンチマーク・リストの上位には、我が国のクラウド・サービスも多数含まれています。また、大手SIerである新日鉄住金ソリューションズのクラウド・サービスであるabsonneのように、「99.999%保証する」としているサービスもあり、「クラウドの信頼性は低い」とは、もはや言い切れないでしょう。

また、Googleには、セキュリティ担当の専任技術者が300人いるそうです。それに比べて、我が国のユーザー企業の情報システム部門にセキュリティ専任のエンジニアは何人いるでしょうか。他の業務との兼任であり、専門的なことは、外部に任せているところも多いのではないでしょうか。

米国連邦政府のクラウド・ファースト・ポリシーやAWSが「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準」を満たしているとのレポートなどは、その裏付けとなるものです。

運用管理については、そもそも常識が違うことを念頭に置いて考えなくてはなりません。従来のように、専任の運用エンジニアを配置し、個々のアプリケーション毎に運用設計し、個別に運用管理するという常識は、クラウドにはありません。



あらかじめ用意された運用メニューから、運用パターンを選び、条件設定する。つまり、リソースとセットでパッケージングされた運用を調達するという考え方です。

運用はそれ自体パッケージングされた部品であり、機能の作り込みと品質保証がなされています。これを組み合わせて、運用を自ら組み立てるという発想が求められます。これは、運用管理をエンジニアの個人的なノウハウ、つまり暗黙知に頼るのではなく、高度に工業化された部品を組み合わせて利用することに相当します。従って、用意された運用内容や、サービス毎の運用思想を正しく理解しなければ、使いこなせません。その一方で、だれもが品質保証され、標準化された運用管理サービスを利用できることにもなるのです。

確かに、上記の要件を満たさないサービスもあることは確かです。だからこそ、それを見極める情報収集力と目利き力が必要になるのです。

「クラウド・サービスはエンタープライズ・プラットフォームとしての要件を満たしつつある」ことは、もはや常識です。

この現実に目を背けることなく、その得意不得意を見極め、最大限に活用することこそ、TCOの削減やITの戦略的活用を促すことになるのです。

ところで、SI事業者は、この現実をどのように受け止め、対処してゆけばいいのでしょうか。その戦略は、大手と中堅中小とは、異なると考えています。



大手は、自ら戦略的な取捨選択を行い、ミッション・クリティカルなSI案件と絡めつつ、その受け皿となるクラウド・サービスを提供する戦略で手堅く地歩を固めるか、Amazonに対抗する徹底したコモディティ戦略を推進するか、そのいずれかの選択ではないでしょうか。中途半端なSaaSや曖昧なポジショニングは、自らの存在感を放棄することに他なりません。

中堅中小は、コモディティ化されたクラウド・サービスを最大限に利用し、これまで大手しかできなかった大規模インフラを前提とした開発や、本番実行環境のITO(IT Outsourcing)を受託するストック・ビジネスへのシナリオが描けるように思います。

これまで積み上げてきた現場や業務のノウハウを特定の領域に特化しSaaSビジネスを展開することも可能です。従来のように自ら資産を持つ必要はなく、拡大も撤退も容易です。そのためには、改めて自分たちの強みを再定義し、その価値をどのようにサービス化するかを考えることが必要です。そして、ユーザー企業にダイレクトにアプローチすることを考えるべきでしょう。これまで同様に、大手SIerの配下で受託、派遣に甘んじ、自らのリスクを回避しづける限り、この先はないと思います。

時代が大きくシフトしていることに、私達は真摯に目を向けなくてはなりません。例えそれが、既存の収益基盤を脅かすものであっても、それが時代の流れであれば、対応しなければなりません。ただ、現実に目を向ければ、「ああ、大変だ。どうしよう・・・」で思考停止に陥っている人たちが実に多いことを残念に思います。

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2012年11月24日土曜日

人材が育たない・心の有り様を忘れた人材育成

「これまでは営業力なんて気にしなくても仕事はそれなりに回っていました。しかし、もうそんな時代ではありません。なんとか優秀な営業を早く育てたいんです。」

こんな相談を受けることがあります。しかし、数日の研修でそれができるわけもなく、二つ返事でお引きするというわけにはゆきません。

営業に限ったことではありませんが、優秀な人材を育てるには、まずはその環境を作ることからはじめなくてはならないと、私は考えています。

具体的には、「優秀な人材の採用」、「チャレンジさせる勇気」、「意欲のマネージメント」の3つが、人材育成を支える根底になくてはならないと思っています。

「優秀な人材の採用」が人材育成の起点であるかとは、論を待たないでしょう。残念ながら、「優秀じゃない人材」は、なかなか育たないのです。ならば、「育てれば育つ人間」をはじめから採用することが、人材育成の基本ということになります。

人材育成の視点から見た「優秀な人材」とは、「学習することを楽しいと感じることができる人材」と定義することがだきます。

スタンフォード大学の心理学者であるキャロル・S・ドゥエックは、人間には、「固定的知能観」か「拡張的知能観」かの、いずれかの心の有り様があり、それによって、その人の能力は決まってしまうというと主張しています。

固定的知能感(fixed-mindset)の持ち主とは、自分の能力は固定的で、もう変わらないと信じている人です。彼等は、自分の能力はこの程度だから、努力しても無駄だとみなします。また、自分が他人からどう評価されるかが気になり、新しいことを学ぶことから逃げてしまう心の有り様の持ち主です。彼等が学ぶのは、それが自分にとって利益になる場合です。つまり、これを知らなければ仕事がこなせない、収入が減るなどの場合です。

一方、拡張的知能感 (Growth-mindset)の持ち主とは、自分の能力は拡張可能であると信じている人です。彼等は、人間の能力は努力次第で伸ばすことができると信じ、たとえ難しい課題であっても、学ぶことに挑戦する心の有り様の持ち主です。彼等は、好奇心旺盛に自らテーマを作り、学ぶこと自体を楽しむことができます。

 このような、「自分の能力や知能についての心の有り様」=「知能観(Mindset)」が、学習についての意欲を左右し、能力の獲得や育成に大きな影響を与えるという考え方です。

「これまで経験したことのない仕事だけど、チャレンジしてみませんか?」という問いかけに、「私には無理だと思います」、「自分はそういうことはあまり得意じゃないんで・・・」という答えが返ってきたとしたら、これは固定的知能感に支配されているか、あるいはそちらに偏っていると考えることができます。

また、「なんでこんな研修を受けなきゃならないんだ、役に立たないよ」、「どうせやっても無駄ですから」などと考えてしまう心の有り様こそ、固定的知能感と言えます。

ベテランの方のなかには、「もう自分はこれでいいんだ・・・」、あるいは、「自分のやり方を今更変えようとは思わない」など、豪語する方もいらっしゃいますが、これなども固定的知能感に支配されていると言えるでしょう。

時間をかけて専門的な知識や能力を身につけても、新しいことに興味を持てなくなったとき、その人の成長は止まったと考えることができます。つまり、固定的知能感を持つようなったとき、それ以上の成長は期待できない・・・残念なことではありますが・・・。

採用の段階で、このような質問を投げかけ、同じような答えが返ってくるとすれば、これは採用に慎重にならざるを得ません。その人を成長させることには、相当な労力をかけることになるでしょう。あるいは、徒労に終わるかもしれません。だからこそ、「優秀な人材の採用」が人材育成をすすめる上での起点となるのです。

「もう採用してしまった人材を今更入れ替えるにはゆきませんよ・・・」そういう反論も返ってきそうですが、確かにその通りです。

そこで、次に取るべき態度が、「チャレンジ」させることであり、それを奨励し、失敗を受け入れる環境を作ることだと思います。

失敗を恐れるあまり、決まり切ったことしかやらせないとすれば、当然、本人は、最低限の能力獲得にしか意欲を持たないでしよう。「これで十分」と考えることこそ、固定的知能感そのものです。

本質的には、拡張的知能感の持ち主であっても、仕事の現場では、固定的知能感の持ち主として振る舞う。そんなこともあるかもしれません。

「チャレンジさせる勇気」、そして、それを奨励し、失敗に対しても真摯に向き合い、解決策を共に考えてゆく。そんな、組織のメンタリティがあれば、新しいことを学ぼうとする意欲が育まれます。そして、成功体験を通じて、そこに成長の喜びが生まれます。そんなサイクルを回すことが、「意欲のマネージメント」です。

「この技能が不足しているから、こういうことを学ばせよう。そのためにはどのような研修プログラムを組み立てればいいだろうか?」

人材育成を考えるとき、このような議論がよく行われます。それはそれとして、大切なことではあるのですが、これだけでは不十分です。

むしろ、「学習に対する心の有り様」をどのように育んでゆくのかを考えるべきでしょう。それがあって、はじめてツールである研修は、効果を発揮します。

「啐琢同時」ということばがあります。これは、雛が卵から生まれようとするとき、雛は殻の内側から卵の殻をつついて外に出ようとします。これを「啐」といいます。そのとき、親鳥もまた同時に外側から卵の殻を破るためにつつきはじめます。これを「琢」といいます。この親鳥と雛が、同時に殻をつつき合うことで、雛は生まれることができるという禅のたとえ話です。

研修だけではなく、心の有り様を育てる。人材の育成とは、まさに「啐琢同時」でなくてはなりません。

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2012年11月17日土曜日

内製化支援というパンドラの箱

「そういうソリューション・ベンダーさんとは、ぜひ戦略的パートナーとして、積極的に組みたいですね」

先日、社員一万名ほどを擁するある大手企業の情報システム部門長との会話で、こんな言葉か飛び出しました。

今、多くの情報システム部門は、内製化を模索しています。これまでのように、開発を外部に丸投げするのではなく、自分たちでシステム開発を手がけようという動きです。

それは必ずしもコスト抑制のためばかりではありません。自らの存在意義をかけた取り組みです。

グローバル化の進展、ビジネス・ライフサイクルの短期化、顧客嗜好の多様化といったビジネス環境の変化は、スピードや俊敏性を経営に求めています。ITは、その手段として、これまで以上に戦略的価値が高まっています。

こんな時代の要請に、情報システム部門が応えられないとしたら、それは経営的に見れば、存在意義のない組織と言われても仕方が無いのです。

情報システム部門が、この変化に対応するためには、クラウド化と開発の内製化は、必須の要件となりつつあります。

既存のIT基盤の統合集約とクラウド化は、プライベート、パブリックの使い分けはあるにしても、これまでのような、ひとつひとつ見積もりを取って、外部に依頼する手間を省きます。そして、リソース調達や変更の自由度と生産性を大幅に向上させることができますし、スピードと俊敏性は、格段に向上します。また、需要の変動に応じてリソースの大きさをダイナミックにスケールできることも、大きな魅力となります。

開発も同様に、これまでのような個別に見積もりを取り、仕様を決めて外部に任せるウォーターフォール型の外注方式では、対応できません。自らの手で、アジャイルに、超高速に開発してゆく手段を持たなくてはならないのです。

しかし、情報システム部門にとって、これは容易なことではありません。そもそも、これまでは、このような仕事の多くを、外部に依存してきたわけですから、スキルを持った人材が内部にはいないのです。

そこで、この状況を裏返して考えて見れば、ITソリューション・ベンダーは、これらができる人材やスキルを抱えているわけです。ならば、そのスキルを使って、お客様のクラウド化や内製化の支援を積極的に行えば、それはまさに、お客様のニーズに合致することになるはずです。

これは、自分で自分の首を絞めるような話かもしれません。しかし、お客様のニーズがそこにある以上、それに応えるべきでしょうし、ビジネスのチャンスがあるはずです。

確かに内製化が進めば、全体としての外部への開発需要は減ることになります。そのために、これまで開発に従事していたベンダーは切られることになるでしょう。しかし、だからといって、全てを内製化できるわけではありません。むしろ、内製と外注の役割の分化が最適化され、全体としての生産性を高めてゆくことになるはずです。

そのときに、切られる側に立つか、残る側に立つかです。内製化支援は、情報システム部門が、まさにそんな意志決定を行う上で、大きな判断基準になるのではないでしょうか。

我が国では、IT産業は、もはや成長産業ではなく、成熟産業といえるでしょう。かつてのように、全てが生き残れる時代ではなくなりました。競合が常態化し、淘汰される時代へと変わりつつあります。

「そういうソリューション・ベンダーさんとは、ぜひ戦略的パートナーとして、積極的に組みたいですね」

この発言は、「内製化支援に積極的に取り組んでくれるソリューション・ベンダーがいたら、どうでしょうか?」という、私の質問への答えでした。

お客様が何を求めているかに目を背けていては、ビジネスのチャンスはありません。例え、それが、これまでの収益基盤を脅かすことであったとしても、対処しなければならないのです。そして、この需要の変化をどのようにビジネスにしてゆけばいいかを考え抜き、自らを変革する決断を下さなくてはなりません。

開発~保守~運用のサイクルを自ら回してきたこれまでの収益モデルから、お客様自身にこのサイクルを回していだくために、何をすべきか、何ができるかを考える。わたしは、これからのビジネス・チャンスは、こんなところに潜んでいるように思っています。

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2012年11月10日土曜日

SIビジネスは、今後どうなるんでしょうね?

SIビジネスは、今後どうなるんでしょうね?」

最近、よくこんなことを聞かれます。残念ながら、こうだと言い切れる答えはありません。ただ、「SIビジネス=受託+請負+派遣」という頭しかなければ、未来はないと断言する事だけはできます。

SI(System Integration)という言葉の歴史的意味をご存知でしょうか。私たちは、今改めて、この言葉の原点に立ち返り、自らの役割を見直すべきではないかと思うのです。この本来の意味にこそ、これからのSIビジネスの「あるべき姿」があるように思うからです。



1978年のVAX11/780の登場は、ミニコンやオフコンの登場を促す事になります。また、1981年のIBM PCの出現は、PCのビジネス利用のきっかけを作りました。

それまでコンピュータと言えば、高価なメインフレームしかありませんでした。そこに、安価に導入できるミニコンやオフコン、PCが登場し、ダウンサイジングの流れが始まったのです。その結果、ひとつの企業で、様々なメーカーのコンピュータを使うマルチベンダーの時代を迎えたのです。

その一方で、コンピュータ本体の価格低下は、台数の増加とメーカーの異なるコンピュータの混在を加速する事になりました。その結果、相互の接続や互換性の確保、バージョンアップやトラブルへの対応など、運用管理に伴う負担が増大する事になりました。

それ以前は、IBMなど特定メーカーのメインフレームによる集中システムであり、その組み合わせはすべてメーカーに任せる事ができました。しかし、膨大な数の分散システムを自らの責任で組み合わせ、運用管理することになったユーザー企業は自ら大きな負担を背負い込む事になったのです。

当時、未だ一社完結主義を貫いていたIBMは、この時代の流れに出遅れました。その結果、初めての減収減益を経験したのです。

そんな時代の1993年、当時RJRナビスコのCEOであったルイス・ガースナー氏が、初めて外部からIBMCEOとして招聘されたのです。

かれは、この現状を見て、これまでのIBMの基本理念であった一社完結主義を捨て「メーカーや機種を問わず、その組み合わせに責任を持つ」ことを宣言したのです。そして、これをソリューションと称したのです。つまり、IBMの製品だけではなく、他社の製品を含めてシステムの構築やサポートを行うビジネスに参入することにしたのです。

そして、このソリューションを提供するサービスをシステム・インテグレーションと呼ぶことにしました

それ以前から、ソリューションやシステム・インテグレーションという言葉は、使われていましたが、そこに明確な定義はなく、各社各様にキャッチフレーズとして使っていたにすぎません。そこに新たな定義を与えたのです。

この辺りの事情については、「ソリューションの本質 その歴史的背景」に詳しく書かせていただきましたので、よろしければ合わせてご覧ください。

「システム・インテグレーション」の出自を改めて考えてみると、今の時代に必要なものが見えてくるような気がします。
  • お客様の必要としていることに真摯に目を向けこれに対応しようとしている
  • お客様のニーズに応えることを優先し、最適な組み合わせを自社製品・サービスにこだわらず提供しようとしている
  • お客様の経営や業務に関わるシステムの企画や設計など、上流行程に関わることからビジネスのチャンスをつかもうとしている
クラウドの時代になり、また、サービスの時代になってもこの基本はかわりません。ここに立ち返ってこそ、自らの果たすべき役割が見えてくるのではないでしょうか。

さて、改めて、この視点で、今のお客様のニーズを見れば、次のようなキーワードが浮かび上がってきます。
  • ITプラットフォームの統合と集約
  • ITプラットフォーム資源と運用のアウトソーシング
  • ITガバナンスの強化
  • 内製化の拡大
  • 情報システムの戦略策定能力の強化
仮想化やクラウドの普及、セキュリティへの関心の高まり、文化や言葉の違う海外との緊密な連携、SaaSやカスタマイズしないパッケージの利用などの環境の変化が、このようなキーワードを浮かび上がらせています。

もはやこれまでのような「受託+請負+派遣」のスキームにビジネスが収まる時代ではありません。新たなお客様のニーズを先取りし、積極的にチャンスを広げてゆかなくてはなりません。

今あるスキルセットを大きくかえなくてはならないでしょう。あるいは、自分で自分の首を絞める事もあるでしょう。

イノベーションは創造的破壊をもたらす」とは、経済学者シュンペーターの言葉です。ITは、その繰り返しによって市場を広げてきました。これもまた、歴史の教える教訓です。

この流れから逃れられないのであれば、自らその流れに飛び込むしかないのです。ただ、それができる余裕は、そう長くは続かないように思います。


■ NeoCoreサミット2012にて講演させていただきます。

「注目のNoSQLデータベース:XML DBとは?」
ビッグデータの時代を迎え、何でもRDBの時代からNoSQL DBを適材適所で使い分ける時代へと変わりつつあります。本講演では、このNoSQLとは何かを概観し、その中でXML DBとはどのような位置付けにあるかを説明いたします。また、その可能性についても解説します。

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2012年11月3日土曜日

クラウドはだれのためにあるのか

「クラウドは、ITエンジニアの72%がユーザー企業に所属するアメリカで生まれた、ITの“デリバリーモデル”」


この事実を踏まえ、中田氏は次のように解説しています。

クラウドは、リソースの調達や構成の変更など、ITエンジニアの生産性を高め、コスト削減に寄与するものです。とすると、ITエンジニアを多く抱える米国では、クラウドはユーザー企業の生産性を高めることになります。

ところが我が国では、そのような仕事はシステムの構築や運用を受託しているSIerなどのITベンダー側に任され、そこにITエンジニアがいるわけですから、彼等の生産性向上に寄与することになります。

一方、これはITベンダーにとっては、案件単価や単金の減少を意味します。また、調達や構成の変更はリスクを伴う仕事です。米国では、そのリスクをユーザーが引き受けることで、自らの生産性の向上を享受できるわけですが、我が国ではITベンダーが背負わされることとなります。

そう考えるとITベンダーにとってクラウドは、案件単価や単金が下がりリスクも大きくなることを意味し、利益相反の関係となります。

この話を私なりの解釈も交えながらまとめたのが以下のチャートです。



中田氏の考察を踏まえ、我が国のクラウド・ビジネスの課題を整理してみました。

クラウドにおけるソースの調達や構成の変更は、「セルフ・サービス・ポータル」と言われる画面を使って行われます。必要なシステムの構成や条件を入力することで、仮想リソースを直ちに手に入れることができます。

従来、このような作業は、業務要件を洗い出し、キャバシティ・プランを行い、システム要件を決め、それにあわせたシステム構成と選定を行い発注します。そして、物理マシンの調達、キッティング、据え付け、導入作業、テストを行っていました。

このような作業が、物理的作業を必要とせずWeb画面から簡単に行うことができるわけですから、生産性は大いに向上します。

しかし、我が国のユーザー企業は、このような作業の多くをITベンダーに依存してきました。従って、今更自分でやれと言われても、仕事が増え、リスクも背負わなくてはならないわけですから、モチベーションは上がりません。

ITベンダーも受注単価が下がり、人もいらなくなるわけですから積極的にはなれません。このような双方の利害の一致が、我が国のクラウド普及の足かせとなっていると見るのは、少々うがったものの見方でしょうか。

また、これは以前のプログでも紹介しましたが、我が国にはITスペシャリストとしてのCIOが少なく、リスクを取っても情報システムを戦略的に利用してゆこうという企業が少ないという現実があります。これもまた、クラウド普及の足かせになっているともいえるでしょう。

人件費についての日米の意識の違いについても考えなくてはなりません。米国における人件費は変動費です。クラウドによる生産性の向上は、情報システムに関わる人材を削減することになり、コスト削減に貢献します。一方、我が国の人件費は固定費です。従って、生産性が向上しても埋没コストの削減にしかならず、直接的な人件費の削減にはつながりません。これもまた、クラウド普及の障害となります。

米国のユーザー企業において、ITスペシャリストであるCIOは、多くのITエンジニアを抱えています。また、パッケージ・ソフトウェアもカスタマイズすることなく利用することが当然と考えています。このようなビジネス環境においては、クラウドの利用は、大きなメリットをユーザー企業にもたらすことになります。

残念ながら、我が国において、米国と同じシナリオでクラウドの価値を訴求することは困難といえるでしょう。

では、我が国では、クラウドは価値がないのでしょうか。いいえ、決してそんなことはないと思っています。米国とは価値の置かれている重心が異なっていると私は考えています。



我が国は、今、グローバル化の急速な進展、ビジネス・ライフサイクルの短命化、顧客志向の多様化と言った、大きな産業構造の変革にさらされています。

このような事態に対処するためには、ITを戦略的に活用することが有効な手段となり得るはずです。そのためには、経営環境の変化に合わせ、迅速に(=スピード)、俊敏・柔軟に(=アジャイル)、そして、必要に応じてリソースを容易に拡大でき、不要となればすぐに手放すことができる(=スケール)システムが必要とされるでしょう。まさに、クラウドの価値は、ここにあるのではないでしょうか。

「クラウドは生産性向上の手段でありコスト削減につながる」という「効率・コストへの期待」は、残念ながら、我が国においては簡単に受け入れられません。むしろ、経営環境の急激な変化に対応できる「戦略価値への期待」を訴求し、そのためのソリューションを提案してゆくべきです。

ITのトレンドは、米国発祥のものが圧倒的であり、その流れを止めることはできません。だからといって、私達は、その奔流に唯々翻弄されるだけでいいのでしょうか。むしろ、我が国のIT活用を大きく進化させてゆくチャンスとして、この流れを利用してゆくべきです。

ITベンダーはもっと真剣にこの視点を掘り下げ、事業戦略に活かしてゆくべきです。それが、淘汰の時代に生き残るために必要なことではないでしょうか。

*** 「中田敦」氏のお名前を当初「田中敦」氏と記載しておりました。ご指摘を頂き訂正いたしました。中田様にはお詫び申し上げますと共に、訂正させていだきました。

■ 日経コンピューター主催 「ソリューションビジネス力養成講座」を開催します。
もう時間がないのですが、未だ席には余裕があるそうです。こちらで講義させていただきます。よろしければ、お申し込みください。

■ NeoCoreサミット2012にて講演させていただきます。

「注目のNoSQLデータベース:XML DBとは?」
ビッグデータの時代を迎え、何でもRDBの時代からNoSQL DBを適材適所で使い分ける時代へと変わりつつあります。本講演では、このNoSQLとは何かを概観し、その中でXML DBとはどのような位置付けにあるかを説明いたします。また、その可能性についても解説します。

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2012年10月27日土曜日

「あいつは頭が悪い」と言う前に・・・

「あいつ、頭が悪いんですよ。こっちがちゃんと話しているのに、全然分かっちゃいない。困ったもんです。」

困っているのは、相手の方ではないでしょうか?伝わらないのは、相手のせいではありません。こちらの伝え方が悪いだけのことです。

「言った」、「言わない」の議論になることがあります。「あのとき言ったよね」、「そんな話聞いちゃいないよ」。たぶんどちらも本人にとっては真実なのでしょう。

 お互いが100%わかり合えることは不可能です。コミュニケーションとは、これを前提に考えなくてはなりません。

コミュニケーションは、「聞く」「尋ねる」「伝える」3つの要素の組み合わせです。



「聞く」とは、相手の伝えようとしていることに傾注し、その言葉によって、何を伝えようとしているのか、自分にどのような行動や気持ちの変化を起こさせようとしているのか、その意図や目的を知ろうとする行為です。けっして、相手の発する単語を記憶する行為ではありません。

そして、相手の意図や目的について、自分なりに解釈し、それを自分の言葉に置き換えてみることです。そして、その解釈が正しいかどうかを相手に「尋ねる」ことで、正しいのか、間違っているのか、修正すべき点はどこにあるのかを確認します。その繰り返しによって、相手の伝えようとする目的や意図に近づくことができます。

しかし、どれだけ相手の意図や目的に近づくことができても、100%ではありません。そのギャップを思い切って飛び越えなくてはなりません。それが、「共感」です。

「共感」とは、相手の「痛い」経験を自分の中に再現し、自分も「痛い」と感じることです。相手の悲しみを自分の中で再現し、涙を流すことです。「共感」とは、言葉だけでは伝わらない相手の意図や目的を想像力で乗り越える行為と言えるかもしれません。

「尋ねる」るとは、自分の解釈を相手に確認する行為です。つまり、自分の仮説を示し、相手の回答によって検証する行為です。

「きっとこういうことだろう」、「こういうことに興味があるはずだ」、「こういうことに困っているに違いない」など、自分なりの仮説を組み立て、「私はこのように考えて見たのですが、それで正しいのでしょうか」と尋ねる行為です。

「何かありませんか」、「何でもいいから教えてください」、「何か言ってください」では、尋ねたことにはなりません。

「伝える」とは、相手に情報を伝達する行為です。ここでいう情報とは、感情、意思、思考、知識などです。そして、このような情報を伝達することで、相手の共感を引き出し、さらには相手が行動を起こすように相手の意識を制御することまで考えなくてはなりません。

そのためには、相手の興味や趣味、関心事、立場や状況などを知り、相手が理解し、行動しやすい条件はなにか、相手にとって理解しやすい単語や表現とは何かを想像しなくてはなりません。

そして、自ら描いたシナリオで、相手に言葉を放ってみる。そして、その反応を受けてシナリオを修正し、また再び言葉を伝える。そんな行為の繰り返しによって、情報を伝え、共感や行動を引き出す行為が、「伝える」ことなのです。

自分の「聞く」、「尋ねる」、「伝える」の3つの行為に、相手も対応する。この相互の行為が、コミュニケーション活動です。

コミュニケーションとは、そんなお互いの行為の結果であり、一方の行為だけでは成り立ちません。

しかし、現実には、お互いがこのようなコミュニケーションの構造を理解し、適切に行動することなど、なかなかありません。

だからこそ、私達は「聞く」、「尋ねる」、「伝える」の3つの行為を意識し、相手をこの行為に巻き込むことが大切なのです。

こちらの伝えたいことだけを伝え、満足をしてしまっては、それは伝わったことにはなりません。相手の共感や行動の変化を確認し、はじめて伝わったと言えるのです。

「伝えた」という自分の満足ではなく、「伝わった」という相手の真実が大切である。

以前ブログで書いた言葉です。コミュニケーションの本質は、ここにあります。

改めて自分を振り返れば、時に自分の言葉に酔いしれ、話したことに満足し、相手の共感や行動の変化に関心も払っていないことがよくあります。改めて、コミュニケーションとは何かに思いをはせ、自戒を促したいとここに書かせて頂きました。

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2012年10月21日日曜日

何ができるかではなく、何をすべきかを考える

「皆さんの会社の複合機と競合会社の複合機では何が違うのでしょう。どこが競合優位なところなのでしょうか。」

オフィス製品をとりあつかう大手メーカーの営業研修で、こんな質問をしてみました。しかし、その違いを明確に説明できる人はいませんでした。

同じ質問をその競合会社の営業研修で行ってみました。しかし、ここでも営業の皆さんの答えは同じでした。

今年に入り、西東京地区でふたつの新しいデータセンターがオープンしました。どちらにもおじゃまして話をうがいましたが、セキュリティ面、災害強度、エネルギー効率など、「次世代型データセンター」と自称されるだけあって、すばらしい設備です。しかし、この両データセンターの違いはどこにあるのでしょうか。営業であれば、その違いを明確に説明できなければ、売り込むことはできないはずです。

複合機の場合も、次世代型データセンターの場合も、機能・性能は頂点に達し、その違いを説明することが困難なほどに、ともに高い完成度です。

もうこうなると、機能・性能の比較で競合することはできず、あとは価格競争しかありません。「コモディティ化」とは、まさにこのような状況を指す言葉です。

企業は切磋琢磨して高い完成度を目指します。しかし、それが行き着くところまで行き着いた先には、コモディティ化が待ち構えています。

モノで差別化が図れないのであれば、サービスで差別化を図るしかありません。ITビジネスの多くは、今この命題を抱えています。

モノがまだまだ過渡期にあるときは、モノの機能・性能が、価値を評価する基準となっていました。サービスはモノに付帯するおまけでしかなく、競合優位を左右するものでありません。モノが顧客価値を支配している段階です。

ところが、モノの性能や機能では差別化できない段階になると、差別化の基準はサービスに移行します。つまり、サービスが顧客価値を支配することになります。つまり、サービスに差別化可能な価値を作り込まなければ、競合優位を見出すことはできないことになります。

だからといってモノの機能・性能という価値が重要性を失うわけではありません。それは「前提」として不可欠な存在であり続けます。ですから、モノを提供するための高い技術力の必要性がなくなるわけではないのです。しかし、それ自身が、差別化の要件にはなりえないのです。

そうなると、モノとサービスを一体として、顧客価値の創造と差別化を図ってゆくことが必要となります。しかし、「モノを前提としたサービス」であっては、モノが顧客価値を支配することに変わりはなく、できる範囲も限定されることとなります。

モノを前提とせず、どのようなサービスがお客様の価値を創造できるのかを追求する。そして、どのようなサービスが、差別化を創造し、競合優位を確立し、収益につながるかをまず考え、その上で必要なモノを考える。そういう発想が必要となります。「サービスが顧客価値を支配する」とは、このような発想に立つことなのでしょう。

Appleが、iPhone/iPadとともに展開しているiTunesやApp storeは、サービス支配型ビジネスの典型と言えるケースです。

どこの会社もAppleと同じことができる訳ではありません。しかし、この視点は、これからのITビジネスを考える上で、不可欠な発想です。そして、Appleでなくてもできることはいろいろとあるはずです。

「お客様の課題は何か、何を必要としているのか、どすれば、そんなお客様の課題を解決し、ニーズを満たすことができるのか」。

何ができるかではなく、何をすべきか」を考えることです。そして、それに必要なモノやサービス・プロダクトの組み合わせを考えます。

全てが自社の商材でまかなえるとは限りません。しかし、「何をすべきか」の視点に立てば、それは致し方のないことです。

複合機やデータセンターのようなコモディティ化の現実に対処し、競合優位を見出すためには、「サービス支配」の視点に立って、ビジネスを捉えることが必要です。

お客様が必要としていることは、モノを手に入れることではなく課題を解決することです。あるいは、ニーズを満たすことです。そうであるとすれば、どんなサービスが魅力的であるのかと考えます。そして、それが十分に魅力的であるとすれば、その実現に必要な複合機やデータセンターは、それ自身が一定水準の機能や性能を備えているとすれば、結果として採用していただけるはずです。

クラウドのIaaSもそろそろそんな段階にさしかかったようです。

以前にもご紹介したIaaSの稼働状況をベンチマークしているサイトがあります。これを見ると、名だたるクラウド・サービス・プロバイダーは、いずれもエンタープライズ・ニーズを十分に満たす高いサービス・レベルであることが分かります。

IaaSもまたコモディティ化の段階に達していると言えるでしょう。その前提に立てば、IaaSを事業としている企業は、お客様の課題を解決するためのサービスは何かをまず考え、その基盤としてのIaaSという「サービス支配の戦略」で、競合優位を見出す必要があります。

あるいは、AmazonやGoogleのように、コモディティとしてのIaaS基盤を徹底的に追求し、コストパフォーマンスやサービスの安定性、自動化や自律化といった基盤としての顧客価値を追求すべきかもしれません。

後者は相当の体力を必要とします。それが、容易ではないとすれば、サービス支配の視点に立ち、競合優位を見出すしかありません。

先行逃げ切りでモノの付加価値を追求するビジネスを展開するか、それともコモディティを基盤としてサービス支配のビジネスを展開するか。いずれにしても、その位置づけを明確にしなければ、競合優位を確立することはできません。

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2012年10月14日日曜日

ITのトレンドを知るための3つの習慣

 「どうやってITについての知識を学べばいいのでしょうか。なにかいい本はありませんか?

  ITトレンドについて講義をすると必ずこんな質問を受けます。正直なところ、この手の質問には、「これが正解」と申し上げられるものがありません。人それぞれに状況も違えば、好き嫌いもあるでしょう。そうはいっても質問を受けた以上は、回答しなければ講師としての面子もありますので() ・・・ということで、私なりの勉強術について紹介させていただきます。

1.朝のゴールデンタイム
 社会人にもなれば残業など当たり前ですし、夜の付き合いも仕事のうちです。また、趣味や家族のためにも時間を使わなくてはなりません。当然、昼間は仕事に忙殺される毎日ですから、勉強する暇などありません。そうなると残された時間は朝しかないのです。 
 私の場合は、歳のせいか最近は毎朝5時前に起床しオフィスには6時過ぎに着くようにしています。これは最近はじめたわけではなく、新入社員の頃からできるだけ早くオフィスに出て自分の仕事を片付けるようにしていました。 
 当時の私の上司は、平気で夜の十時にミーティングを招集するような人でした。そのミーティング終わって「明日の朝、お客さんに持って行くから、それまでに資料、作っといて!」など、普通でした。また、仕事仲間とのカラオケやお客様との会食もあります。必然的に夜の時間はありません。そうなると、仕事を片付けるためには朝しか時間がありません。朝早くオフィスに出て行く習慣は、そんなやむにやまれぬ事情があったからです。 
 しかし、今改めて考えてみると、これは私にとって大変価値ある習慣になりました。だれもいないオフィスでお客様からの電話もありません。当時は、電子メールもなかったので、自分の時間に没頭できました。 
 新聞や雑誌を読む、営業資料や製品のマニュアルに目を通す、資料をまとめる、前日の仕事のレポートをまとめるなど、自分でコントロールできる時間がありました。こき使われる身でしたから「自分でコントロールできる」は貴重な時間でした。これもまた、そんな時間を作ろうという意欲の源泉であったと思います。 
 サラリーマンをやめてもこの習慣は変わることはありませんでした。なんといっても、仕事がはかどるという、一度手にした快感は捨てがたいものがありました。また、貧乏性なので、目が覚めたのに何もしていない時間がもったいないと思ってしまい、結局は三十年近く続けています。 
 朝に自分のためのゴールデンタイムを持ってくるという習慣。仮に1時間いつもより早く目覚め、この時間を持てば、10年間で1.5年間分(18時間換算)自分のためだけに時間を費やしたことになります。考えて見れば、これは凄い時間です。 
 勉強のために時間を作るという努力。まずは、その決心が必要ですが、その決心があるなら、朝しかありません。コーヒーの一杯でも飲みながら冴えた頭で脳みその体操を行う。脳みそは、一生付き合う相棒ですから、まあそれぐらいのことをしてやってもいいのではありませんか。
2. ソーシャル・ウオーキング
 これは最近の習慣ですが、TwitterFacebookという大変優秀な教師のお世話になっています。 
 「キュレーター」。もともとは、博物館や図書館で収集資料の研究に携わり、専門知識をもって展示の企画や収集物の管理業務にあたる人をさす言葉です。日本語の学芸員に相当する人です。 
 実は、ネットの世界にも数多くのキュレーターが活躍しています。電子出版、クラウド、ネットワークなどのITの世界に留まらず、美術や生活、雑学も含め、様々な分野で、自分の趣味や価値観を基準に情報を収集し、それをブログにまとめること、TwitterFacebookで紹介している人が少なくありません。 
 これぞという人に出会うと「フォロー」や「購読」をするわけです。そうすると、彼等は私の教師となり、自分が探さなくても、自分の専門分野で毎日貴重な情報のありかを教えてくれます。 
 「偏りがあるんじゃありませんか?」、そんな質問を受けることがあります。全くその通りで、実に偏りがあります。だからこそ、そこには自分には気付かない視点があり、新しい気付きをあたえてくれるのです。 
 また、「同じような話ばかりでは?」、そんな疑問もあるかもしれませんが、多くの人が話題にしているということは、それだけ社会的関心が高いと言うことになります。また、その人なりの解釈や意見も付記されていて、自分の狭量に気付かせてくれることもしばしばです。 
 キュレーターが紹介してくれている情報を、散歩するように見てゆきます。そして、これぞと思う書き込みがあれば、そのリンク先をクリックしさらにその情報について、深く読み込むことにしています。 
 「TwitterFacebookなんかしている暇ありませんよ」、そんなご意見もあるでしょう。確かに私も「遊びすぎ」です。しかし、得られる情報の多さと幅の広さは、自分ひとりでできる量を遥かに超えています。おかけで、情報収集の能力が飛躍的に拡大できた思っています。  
 だらだらと散歩をするというよりも、覚悟を決めて楽しい遠足に行く、そんな感じでしょうか。個人的には、「逍遙」と洒落てみたいですね。
 3. アウトプット思考
 「他の人に説明するためには、どうすればわかりやすいだろうか」と考えながら、情報を読みます。気付いたことをFacebookで説明してみます。説明しようとすると、分かっていないなぁ、とがっかりします。また、Evernoteにそのリンク情報と共に、説明するときのセリフを書き込んでゆきます。 
 「わかりやすく伝えるには、どうすればいいだろうか」。そんなことを考えながら、ひとつのテーマでいろいろな資料を読み込んでゆくと、次第に枝葉と幹が見えてきます。そして、それを最後に自分の説明資料として書き出しています。 
 ただ読むだけではなく、「だれかに説明するために読む」。説明するとなると、うかつなことは言えませんから、物事の本質を見極めようという態度になります。また、何よりも、人が関心を持ち、話題になりそうなテーマは何かを探すようにもなります。そんなことが、トレンドを追いかける眼を養ってくれているのかもしれません。 
 「伝えるために学び考える」が、「アウトプット思考」です。時々、思いついたようにポストしている「コレ一枚シリーズ」は、そんな私の逍遙のスナップ写真のようなものです。

 「知識の逍遙」、ちょっとかっこよく申し上げればそういうことかもしれません。何かに合格するための勉強ではありません。何かの役に立つから学ぶわけではありません。学ぶと言うことを遠足のように楽しむ感覚とでも申し上げておきましょう。

 ITの知識に限らず新しい知識に触れられる時間は、本当に楽しいものです。朝の1時間、ソーシャルを散歩し、スナップ写真を残す。勉強法と言えるかどうかは分かりませんが、私はそんな楽しみ方をしています。

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2012年10月6日土曜日

営業の感性・貴方は感性の高い行動をしていますか?


 感性とは、本来、美や善などの印象を知覚する能力です。これは非言語的、無意識的、直感的なもので、例えば何らかの音楽に「素敵」と感じることや「自分は好きじゃない」と違和感を覚える感覚を引き起こす能力です。

 営業における感性とは、「また会いたい」、「話したい」、「相談したい」と相手に思わせる能力です。そのためには、「できる」、「頼れる」、「よく知っている」といった理性面で、能力の高さを相手に感じさせることができること、そして、「いいひと」、「話しやすい」、「気持ちがいい」といった、感性面で人として好意を感じさせることができることです。

 このような能力は、営業活動を円滑に進めるために必要なもので、特に新規顧客へのアプローチにおいては、この「営業としての感性」が、決定的な影響を及ぼすこともあります。

 この感性を哲学的に議論しても、行動として表現できなければ、何の役にも立ちません。そこで、「感性の高い営業の行動は何か?」という視点でチェックリストをまとめてみました。これを使って、営業として感性の高い行動ができているかどうかを振り返ることができます。



お客様について理解できている
 公式に公開されている情報ばかりでなく、第三者からの情報や評価、対立した意見、競合他社や業界に関わる情報、裏話など、公開、非公開を問わず広くお客様について精通していることが必要です。

 情報の感度が高ければ、案件獲得のチャンスを広げることができます。また、お客様への説明や説得に自信を与え、幅広い情報に裏付けされた話は、お客様の信頼感を高めることになります。

 営業活動は、すべからく情報を手に入れることから始まると言っても過言ではありません。求められる情報は、広範にわたりますが、次のように3つに区分して考えて見ましょう。

お客様の会社について理解するために必要な情報
ニュースやプレスリリース、社内報やIR情報(財務諸表等)などの公開情報、個人的に親しくなったお客様から「今、販売システムの顧客情報管理のセキュリティに問題があってね」、「こんど、宮城の工場に新しいラインを新設するに当たり工程管理をどうするか検討しているんだ」といった未決定、未公表の情報です。
意志決定に関わるキーパーソンの個人情報
案件の意志決定は、会社としての重要性によって判断されますが、その評価を行うのは個人であり、特に意志決定に大きな影響力を行使できるキーパーソンの個人的意志が判断を左右します。
その方の関心事や価値観、意志決定の基準となるもの、社内における評価、人間関係など、多面的に個人の人となりを知り、自分たちに有利な意志決定を引き出すための情報提供や提案活動を行う必要があります。
世の中の社会常識
直接案件に関係がなくても、お客様との日常的会話に話題を提供することも必要です。特に相手が経営者となれば、社会や経済、経営に及ぶ広範な知識が貴方への信頼感を高めます。
これらは、一夜漬けで手に入れられるものではなく、習慣として、新聞や雑誌、Webなどの様々な情報ソースに触れ、日頃から積み重ねておくことしかありません。そういう習慣を身につけることも、営業としての感性を磨く上では大切なことです。
お客様が話をしやすい雰囲気を作ることができる

 こちらにとって関心があるかどうかにかかわらず、相手にとって関心のある話題を提供することができなくてはなりません。また、話の内容への同意、確認など、お客様の思考の整理や発言を促すことで、お客様が気持ちよく話ができる環境を演出することも大切です。

関心のある話題を提供する
案件に関わらず、相手が関心を持っている話題は何かを提供します。公開されていない情報、例えば自社の内部事情やお客様の他部門の情報などは、関心の高いもののひとつです。ただし、機密やプライベートな話題に触れることは、逆に「どこでもそんなことをはなしているのか」と、不信につながることになります。注意が必要です。
また、ITのトレンドやビジネスの動向について新たな視点を提供することや、同じ話題でも、わかりやすい整理した情報を提供することで、喜んで頂くことはできます。
お客様が欲していることで、かつ新規性の高い情報とは何か、言い換えれば、「びっくり」、「凄い」を感じさせる情報を常に用意しておくことを心がけましょう。
思考の整理や発言を促す
会話の相手が、こちらの尋ねたいことについて、理路整然と整理できているとは限りません。むしろ、そのようなケースの方がまれなことです。
相手の話を聞きながら、相手の思考を整理することは、こちらが必要な情報を手に入れるために大切なことです。その一方で、それは話をする相手にとっても、自分の考えを整理する手助けとなり、ありがたいものです。
相手の話をただ聞き取ってメモするだけではなく、曖昧なところの確認、視点を広げて位置づけを明確にする、など、こちらから積極的に働きかけながら、会話をすすめるべきです。会話内容を整理するために以下の方法は効果的です。
  • 「このように理解いたしましたがいかがでしょうか?」など、自分の解釈を相手に確認する。
  • 「なぜ必要なんですか?」「なぜこの期間なんですか?」など、「なぜ」の問いかけで目的や理由を確認する。
  • 「こういう場合は、どうなんでしょうか?」など、想定される可能性を広げ、状況把握をする。
  • ディスカッション・ノートを事前に用意する、あるいは、会話をはじめる前に議題や目次をホワイト・ボードに書き出し、会話のストーリーをあらかじめ示しておく。
  • 会話の内容をノートやホワイト・ボードに視覚的に整理し、これを確認をしながら会話する。
また、相手を話しやすい気持ちにさせるには、以下の方法が効果的です。
  • 他社の事例、第三者の意見などを引き合いに出し、こちらの一方的な考えではないことを示しながら、相手の抵抗感をなくす配慮をする。
  • 自分の意見に対立する意見も自ら提示し、両者のメリット、デメリットを示しながら、自分の意見の正当性を相対的に示し、相手に納得を促す。
  • 「何かありませんか」ではなく「これについてはどうですか」と質問し、相手の確認を引き出しながら課題やニーズの確認を行う。
  • お客様の発言を遮らず、相手の話を呑み込むように一呼吸置いて、自分の発言をする。
会話がうまくいくかどうかは、相手の意識や気持ちの変化をリアルタイム把握し、適切に対処することです。自分の発言は、相手にどんな気持ちの変化を起こさせているのか、相手は今何を伝えたいのか、何を話さないようにしているのか・・・そのような想像を常に働かせながら、会話をすることが大切です。自分の言葉に酔いしれ、自分の気持ちに埋没しないことです。そして、「自分がそうされたらどうだろう」という目線を忘れないようにしたいものです。

相手の意志や結論を確認する
リップサービスという言葉があります。会話の雰囲気を壊さないように、相手の歓心を誘うような言葉を使うことがあります。また、曖昧なままで会話を終わらせようとすることもあります。
相手が、重要な要件について、このような態度を取ることがあり。しかし、そのままにしておくと、意識のすれ違いが拡大し、後々の混乱やトラブルになりかねません。
金額のこと、競合他社のことなどは、聞きにくいという意識が働きがちです。しかし、基本的には、言葉を濁さず、率直に聞くことです。相手も仕事です。遠回しな会話は時間の無駄という意識があります。礼儀を忘れず、丁寧に質問すれば、相手もそれに答えてくれます。それで応えてくれないとすれば、なにかそうしたくない理由があるはずです。むしろ、そちらを探るような会話をすべきです。また、その相手から情報が得られないときは、別の方と話をすべきかもしれません。
具体的には、次のような話し方が効果的です。
  • 「この内容で提案をさせていだきますがよろしいでしょうか」というように、こちらの考えを提示し、相手の反応を確認している。ただし、方針、重点、構成、金額、体制などの内容を具体的に提示する。
  • 予算の上限、受け入れ可能な金額のレンジを直接数字で示して確認する。
  • 「私ども以外にどちらが提案されているのでしょうか」「他社さんの提案内容はどのようなところに魅力を感じ、弱点があるとお考えですか」など、競合他社について率直に聞く。
  • 「私どもにご発注頂くためには何ができればいいでしょうか」など、採用の条件を聞き出す。このような会話により、こちらへの期待、あるいは、既に他社に決めているかどうかを確認することができる。
立場を離れて会話できる時間を作る
部下や上司など、本人以外の第三者がいる場所では、話せないことがあります。また、立場上本心を語れず、話を曖昧にしてしまうこともあります。また、その逆に、強気の発言で、自分の存在をアピールしようとすることもあります。
会話とは、そのような場の力関係において、大きな影響を受けるものです。従って、場が変われば、異なった会話が交わされることになります。
是非とも手に入れたい情報は、公の場で交わされる公開情報ではなく、まだ未決定であり、重要性の高い非公開情報です。このような情報を手に入れるためには、相手と2人で会話する時間を作ること、あるいは、非公式な会話ができる、あるいは交わされている場所に自ら赴き、情報を手に入れる努力も怠るべきではありません。
具体的には、以下のような行動が効果的です。
  • 必要に応じて、二人で会話する時間を作り、大勢の前では聞けないこと、話せないことを会話する。
  • 会食にお誘いする。ただし、頻度は控えめにすること。頻度が高いと不信感をいだかせる。
  • たばこ部屋や昼食に同行する。
  • 自分たちが出展しているか否かにかかわらず展示会やセミナーに同行する。

お客様から安心・信頼される状況を作ることができる

 会社の看板を外し、個人としてお客様に好感や安心感、知性や誠実さを印象づけることも大切です。それができれば、相手は、安心して仕事を任すことができる存在として、貴方を受け入れ手くれるはずです。

相手に好感を与える
持ち物や服装、誠実な応対などは、相手に良い印象を与えることができます。これは個性にも関わることであり、絶対的な基準を示すことはできませんが、おおよそ、以下の点は抑えておきたいところです。
  • 文房具に安物を使はない。
  • 服装のセンスや清潔さに気を遣っている。
  • メモを取り、お客様の話しを真剣に聞いている姿勢を示している。
  • お客様の話に相槌を打ち、真剣に聞いている姿勢を示している。
  • 笑顔で応対する。
関心を示していることを伝える
人は、他人が自分にどう関わってくれるかにより、自分を評価し、自分の位置づけを確認しています。そして、それが自分への敬意や信頼を感じさせるものであれば、相手にも同様の感覚を持つ傾向があります。
それは、決して大仰なことではなく、日常のさりげない行動です。本来ならば、日常の習慣として意識せずにできるようになることです。しかし、それができていないとすれば、まずは意識して行動しなければなりません。
具体的には、以下のような行動です。
  • 訪問の後は確認や御礼のメールを送る。
  • 仕事や個人的なことでのお祝い事、賞賛すべき出来事などに、電話やメールで賛辞を伝える。
  • お客様に関心のありそうなニュースや話題を見つけたらその情報をメールや会話の席で話題として提供する。
ほかにもいろいろあるでしょう。大切なことは、相手が何に関心があるか、何をしてもらいたいか、何を心地いいと感じるのかについて、想像力を働かせることです。

 「感性」とは、教科書で学ぶだけでは身につけることはできません。自ら行動し、体験的に感じ、それを繰り返すことでしかありません。

 営業の仕事は、このような感性を土台として、プロセスを積み上げてゆくことかもしれません。しっかりとした土台の上に、丁寧に建物を築き上げてゆく。営業の成果は、この両者の完成度を高めてゆくことで、結果としてもたらされるものと、心得ておくべきでしょう。

■ Facebookページに、皆さんのご意見やご感想を頂ける場所を用意いたしました。よろしければ、お立ち寄りください。また、今週は、「コレ一枚シリーズ」に「OpenFlowのメリットと課題」を掲載。注目されるOpenFlowながら、まだまだ課題も少なくない現実を整理してみました。

2012年9月29日土曜日

日本IBM・営業組織再編の深層と課題


 日本アイ・ビー・エムは、新社長を迎え、71日付けで営業体制を大きく変更した。それがどういうものであったかは、多くのメディアが紹介しているので、そちらをご覧いだきたい。

ポイントをかいつまんで解説すれば以下のようになる。
  • 案件開拓を担当する営業部隊をIBMにとって売上が大きくグローバルな超大手企業約150社を担当するIndustryと、それ以外のお客様を担当するEnterpriseに二分する。これにともない、これまで大企業を担当していた営業約200人をEnterpriseに異動する。
  • Industryは、製造・金融・公共・流通・通信メディアの5業種に分割する。
  • Enterpriseは、東北(仙台)・中部(名古屋)・関西(大阪)・西日本(福岡)と首都圏に分割する。
  • 営業は「お客様の業界における地位を向上させること」をミッションとする。このミッションを遂行するためIndustry営業はEnterpriseのお客様の地位向上に対しても責任を負う。
  • Enterpriseは、地域割りの組織ではあるが、それぞれの地域に業種を担当する営業を配置する。つまり、地域と業種のマトリックス組織となる。かれらはそれぞれの業種を担当するIndustryと連携し営業活動を展開する。


 ここでは、このような営業体制変更の背景にある思想や戦略について考えることにする。

IBMは世界的な戦略として、「顧客とのConnectionを強化することで、競合優位を確立する」ことを考えているようだ。

IBM2004年から2年に一度発表している「IBM CEO Study」というレポートがある。これは、全世界のCEOの意識調査を行い今後の企業戦略や情報システム活用の方向性を示そうというレポートだ。日米のCEOIT戦略思想の違いやグローバリゼーションのもたらすものを示唆してくれる実に興味深い内容になっている。

今年の5月に発表された最新版ではサブタイトルには「Leading Through Connections」と書かれている。

その意味するところは、"深い「つながり」が競争力の源泉となる"となるのだろう。

IBMの新CEOである Virginia Rometty氏は、多くのスピーチでConnectionConnectivityという言葉を使っているようだが、まさにここに今回の営業組織改編の背景がある。

つまり、お客様により深くConnectするためには、お客様の業種ごとのニーズや課題、業務が理解できなくてはならない。お客様の業務課題に深く入り込んで提案できる営業体制を築き、これを顧客拡大につなげてゆこうというものである。そして、それぞれの業種内でのお客様の地位向上を支援してゆこうという考えだ。

そのために、案件開拓を担当する営業には、自分のスキルを見直し、各産業分野でのプロフェッショナルを目指すことが強く求められている。

また、お客様の課題やニーズに対処する手段としても、様々な施策を打ち出しているが、そのひとつが、アプリケーションに関わるソフトウェアやサービス企業の買収だ。

営業は、お客様の業務や経営に深い理解を持ち、その課題を解決するために業種毎の課題に深く関わる提案力が求められる。そして、その解決策として、それぞれの業種で必要とされるアプリケーション・パッケージやサービスを提供してゆこうというシナリオなのだろう。

ただ、このようなお客様へのアプローチを営業個人の能力に依存していては限界がある。そこで、お客様とのConnectionだけではなく、社内のグローバルなリソースともConnectし、そのリソースを活用してお客様の価値を高めてゆくことが求められている。

ところで、今回の組織変更を理解する上で、押さえておきたい言葉が、Opportunity (販売機会、需要の見通し)である。Opportunityのあるところにダイナミックにリソースをシフトするということだ。

日本の企業では、お客様の売上や社員数という固定的区分によってリソースの配分を行っている。しかし、IBMの場合は、どれだけのOpportunityが見込めるかによって、リソースを配分する。規模の大きなお客様であってもOpportunityが期待できなければリソースの配分は少ない。

ビジネス合理的に考えれば、きわめて常識的とも言える。しかし、伝統的に我が国の市場は、継続的な人のつながりがビジネスにつながっている。これを踏まえて国産メーカーは営業体制を組んでいる。

今回の組織変更で地域と業種がマトリックス組織となるのは、Opportunityが変われば、「地域」あるいは「業種」内で、縦横にダイナミックに異動させることができるようにするためであろう。人のしがらみを排し、Opportunityという数字で組織を適合させるという考え方は、ますます日本アイ・ビー・エムに浸透してゆくことになるのだろう。

ところで、新社長のMartin jetter氏は、2015年に売上高を1兆円に戻すと宣言している。2011年度の売上は、8681億円であるから、3年で1400億円の増収を狙う。

ただ、Industryの超大手はIBMが既に大きなシェアを持っているところでもあり、ここで売上を大きく上乗せすることは難しいと考えられる。そうなると、この売上増は、Enterprise営業300人が背負うことになる。単純計算すれば、一人5億円の増収を期待されることとなる。それを主に国産メーカーが大きなシェアを持つホワイト・スペースの取り込みやEnterpriseに属する既存大手企業内のシェアを拡大することによって実現しなければならない。これは相当に大きなチャレンジとなるだろう。

SMB(小規模な企業)については、営業効率の観点から、これまで同様パートナー企業にゆだねることになるのではないか。

限られた直販営業でこのチャレンジに挑むためには高い生産性が求められる。そうなると、営業効率の悪いSMBに時間を割くことはできないだろう。結果として、直販営業は、大手既存顧客のシェア拡大と国産メーカーの顧客に入り込む役割を担い、SMBはパートナーが担うことになるだろう。

パートナー施策については、まだなんとも読めない。今回の組織移動で、パートナー事業を担当する組織の大きな変更はなかった。ただ、400万社とも言われるSMBでの売上増大を狙わなければ、大幅な業績拡大は難しい。ただ、ここは国産メーカーが大きなシェアを持ちIBMがこれまでにも切り崩せなかった領域だ。そのためには、パートナーの力に頼る以外にないだろう。

しかし、日本のパートナーは、IBMの製品のシェアが高い欧米や新興国に比べ、相対的に販売力が弱い。特に地方の地場パートナー、あるいは、ユーザー企業の子会社には顕著である。これは、

  • 中堅中小企業における国産メーカーの圧倒的シェア
  • 一定の収益基盤が保証されていること
  • 地域での棲み分けが安定的にできあがっていること

などが背景にあり、他社とのシェア争いは起こりにくい状況があるからだ。

この構造を短期間で根本的に変えることは相当な困難を伴う。果たして、どういう施策を打ち出してくるか、興味深いところだ。

IBM CEO Studyにみる経営者の意識、プロダクトのコモディティ化とサービス志向の動きは、これまで以上に業務や経営という視点でお客様と深くつながることができなければ、競合優位を築くことが難しい時代になりつつある。この意味において、IBMの狙いと組織の変更は、的を射たもののように見える。

ConnectivityOpportunityなど、今回の組織変更は、ビジネス合理性をしっかりと貫いたものである。グローバル企業とはこういうものかと思わせるものがある。

ただ、その一方で、営業の現場は、これまで以上に業種についての高いスペシャリティを求められることになる。ということは、それに適応できない営業、例えば、従来的なスタイルでキャリアを積んできたベテラン営業にとっては大きな負担となるかもしれない。また、数字やルールにきつく縛り付けられることになるだろう。結果として、営業現場の士気を損なうことになりかねない。

また、未だグローバルになじまない我が国の顧客企業がこれをどう捉えるかも気がかりだ。既に大きなOpportunityがある大企業は別として、国産メーカーが大きなシェアを持つ中堅中小のエリアとなると、固定的、継続的な営業活動は容易ではないため、お客様への浸透は、相当に困難を伴うであろう。パートナー企業がそこをどう補うかということになるのだろうが、その施策はこれからのようだ。

どちらにしても、これは大きなチャレンジである。そして、日本IBMの新社長は、これまでの常識、否、しがらみを排して、これを徹底して遂行するだろう。

グローバル化に迫られる日本企業、その一歩先を行くIBMの営業戦略。そのようにも見えるが、そのギャップを本当に埋められるのだろうか。正しい筋道にもみえるが、これは容易なことではないだろう。


■ 締め切りました・第11期・ITソリューション塾  ■
多くのお申し込みを頂きありがとうございます。おかげさまで定員一杯となりました。ご検討頂きました皆様、次は来年2月からを予定しています。どうぞ、そのときまた、ご検討頂ければ幸いです m(_ _)m 
■ ご意見をFacebookページで聞かせください。ご意見を交換できればと存じます。