2011年7月30日土曜日

SIという商品の「かたち」:あなたは汚いものを買いたいと思いますか?

 「こりゃあだめだ・・・」

 ある企業の情報システム部長のスタッフとして、いくつかのSI事業者の提案書を拝見したことがあります。次期システムの構築がテーマだったのですが、中にはそんなため息を漏らさずにはいられない提案を目にすることがありました。
 
 決して、内容がひどいわけではありません。RFPも出しているし、正直なところ構成する機器や開発の中身にそれほど大きな違いはありませんでした。

 では何が違うかといえば、それは資料の美しさです。

 確かに、表紙もあり、目次もあり、内容については実にきめ細かく丁寧に書かれています。しかし、その書き方が、物語調であったり箇条書きであったりと全体に統一感がありません。

 表はエクセル画面をコピーしてきているのですが、ディスプレイ画面をそのままコピーしてきているので枠の外に余計な罫線が表示されています。

 図は色や形に統一性がなく、グレーの箱の上に黒の明朝体で「DBサーバ」と書かれていたり、背景を白で塗りつぶしグレーの箱に「アプリケーションサーバ」と描かれていました。

 タイトルの書き方にも統一感はありません。「1.ハードウェア構成」という書き方もあれば、四角で囲んで「ソフトウェアの機能」と書かれています。内容のレベルが違うのは確かですが、突然書き方が変わると、「なぜ?」と違和感を感じてしまいます。

 フォントの大きさもパワーポイントのデフォルトの箇条書き設定をそのまま使っているのでしょう、ひとつの枠中の文字量の違いによりページによって大小様々で統一されていません。

 まだまだ突っ込みどころは満載なのですが、この辺でやめにしておきます。
 
 内容が悪いわけではありません。見た目が悪いのです。残念ながら、この提案書を出した会社は最終選考の対象から外させて頂きました。
 
 「中身がよければいいではないですか。」そんなご意見もあるかもしれませんが、私はそんなことはないと思っています。
 
 わかりやすく美しい資料とは、相手にわかりやすく伝えようという思いの結果だと思います。そんな気配りも思いやりもないところに仕事をお任せしても、打ち合わせや相談に手間がかかり、余計な時間がかかるだけです。プロジェクト進捗の状況説明を求めてもうまく説明できず、重要なリスクを見落としてしまうかもしれません。

 コミュニケーション能力の欠如。この提案書は、この会社のそんな弱点を露呈していると判断しました。
 
 担当営業の問題ではないか・・・といわれるかもしれません。しかし、それをチェックもできず平気で提出させる会社の文化も疑うべきでしょう。
 
 確かに内容は緻密で正確かもしれません。しかし、こういうところにお任せすると、こちらが言ったことは丁寧にこなしてはくれても、変更や変化への柔軟性は乏しいと思われます。なぜなら、状況説明や対策をわかりやすく説明できるとは思えず、そのため状況判断に手間もかかり、結果として柔軟性に欠ける可能性があります。
 
 プロジェクトにトラブルはつきものです。それも状況把握と意思疎通がうまくできれば迅速に対処できます。この会社に、それが円滑に行えるとは思えないのです。
 
 提案書を見て、その企業の仕事の姿勢は、はっきりと見て取ることができます。
 
 美しいといってもイラストを駆使し色を多用することではありません。「どうすれば混乱なく、確実に大切なことを伝えられるだろうか」を追求すれば、体裁は整い、余計は省き、結果として美しくなるのです。
 
 「SIのという商品には”かたち”がないので売るのは難しい」という人がいます。それは、とんでもない言いがかりであり、ごまかしです。「SIの商品は提案書」ではありませんか。お客様はその「かたち」をみて、買うかどうかを判断しているのではないでしょうか。
 
 まともな提案書も作れないSI事業者とは、まともな商品を作れない会社と言うことになります。だれが汚い商品を買いたいと思うでしょうか。
 
 営業は、そんなお客様の感性にもっと敏感であるべきでしょう。これまでは、書式に従い丁寧に仕様や積算、見積もりを書き上げれば採用していただけたかもしれません。しかし、競合がますます厳しさを増す中、そのような事務書類の提出だけでは生き残ることはできません。その現実に目を向けるならば、今一度、自分たちの商品の「かたち」に真剣に取り組むべきかもしれません。


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2011年7月23日土曜日

新人の営業に何を教えたらいいでしょうか?

 最近、このような質問をしばしば受けるようになりました。どうも、それには次のような理由がありそうです。 
  • これまで営業職を置いていなかったが、ここのところの業績低迷で、営業力強化に乗り出さなければならないということで、営業部門を新設することになったから。
  • これまでの営業は、請求書やクレーム処理などのどちらかというと売った後の後処理中心であり、売り込みはエンジニアという役割分担ができていた。しかしそれでは、必要な受注を確保できなくなってきたから。
  • いままでは、技術者として採用・教育し、何年かの経験の後に営業職にしていたが、営業力を早期に育成しなければということから、営業職としての採用を始めるようになったから。 
 思うように増やせない案件数、競合も厳しさを増し、成約率も利益率も下がり始めています。かつてのように「棲み分け」に甘んじ、丁寧・誠実な仕事と良好な人間関係を維持していれば、次の仕事が確実に回ってくる時代は終わりました。もはや新規顧客を開拓するしか活路はありません。そのような危機感を抱く企業が営業力を強化しようと営業部門を新設・強化し、新人時代から営業職を育てようという取り組みを始めている・・・そんな理由があるのではないでしょうか。
 
 しかし、実際に営業職として新入社員を採用しても、エンジニアと同じ研修カリキュラムをこなし、最後に社内の営業事務プロセスについて説明する程度で営業職の研修を済ましている場合も多いようです。研修期間が終わればOJTということになるのですが、そもそも営業環境が大きく変わってしまった今、手探りでこれからの営業を模索している現場に営業の「あるべき姿」を示す力はありません。新人営業たちは、何を模範に仕事を学べばいいのかわからなくなっています。
 
 新規顧客を開拓することが営業の役割。それを自覚しつつも、なかなか成果を上げられず悩みを抱えている営業の現場。成功の模範がない中で、新人営業たちは何を体験としてOJTで学ぶのでしょうか。今までの経験が通用しなくなった先輩たちは、何を新人たちに教えればいいのでしょうか。そんなジレンマに立たされているのが、今の新人営業の現場ではないかと思っています。
 
 「新人の営業に何を教えたらいいでしょうか?」という質問に、私は「営業という仕事の楽しさを伝え、お客様に相対する自信を持たせることです」と答えています。
 
 新人の研修で、実務実践的な営業スキル、例えば、プレゼンテーションやドキュメンテーションを習得させようとしても、現場の実践に基づく切実さがないなかで身につくものではありません。現場に出て「どうしてうまくいかないんだろうか?」を身をもって体験して、初めて実践的なノウハウの大切さやその意味に気づくものです。
 
 それよりも、営業という仕事が企業の経営を支えていること、知力を尽くし社内外のリソースを最大限に活用してお客様の成功をお手伝いするプロデューサーであること、お客様の経営に大きな影響を与えることができる仕事であること・・・とても大変な仕事だけれども、大きな成長のチャンスを与えてくれる仕事であることを伝えること、そのやりがいの大きさを伝えることが大切ではないかと思っています。
 
 また、自信を与えるためには、営業という仕事のプロセス、つまり、大変な仕事であるということを感覚的、概念的ではなく、具体的な作業の手順に分解して教えておくことも大切でしょう。もちろん、それを直ちに実践できるわけがありません。しかし、知識として知っているのと知らないのとでは、仕事へのストレスが全く違います。例えば、何のガイドブックも地図も持たずに初めての土地を旅行することを考えてみてください。とても不安で、心細くなるはずです。場合によっては、ホテルにこもってしまうかもしれません。怖いんです。不安なんです。そんな気持ちを解消してあげることが必要です。
 
 また、お客様が何を言っているかを理解できる程度に、ITの知識を身につけさせることも大切です。Javaのコーディング技術を身につけても、営業にとっては役に立ちません。コンピューターの原理や歴史を伝えることは大切なことではありますが、それがクラウドや仮想化、Webアプリケーションにどうつながっているかを教えなければ、お客様の話を理解できないのです。
 
 提案できなくてもいい、しかし、お客様の話していることがどういうことなのかを整理して理解できる。その程度の知識もなければ、不安になりあせるだけであり、お客様を怖いと感じるかもしれません。
 
 現場に配属される前は、何をすればいいのかわかりません。ワードやパワポの使い方、事務処理の手順、ビジネス・マナーなどのオペレーショナルなスキル不足への不安を持つようです。配属されて数ヶ月もたつと、そのようなオペレーショナルな不安は解消します。しかし、アカウント・マネージメントや顧客応対について苦労し失敗し、何とかしなければと思うようになります。提案書の書き方、会話や交渉の仕方、営業プロセスの管理など実践的な顧客応対スキルに関心が移ってゆくようです。
 
 このような関心や不安の変化にあわせ、自信を持たせる研修を実施してゆくべきではないかと思っています。
 
 このブログでもたびたび申し上げていますが、成功の方程式は、3年前と大きく変わっています。そのことを真摯に受け入れなくてはなりません。過去の成功体験を押しつけないでください。もしそれに従えば、彼らは失敗しますから、先輩や上司への不信を募らせることになります。
 
 それよりも営業という仕事の大切さとその楽しさを伝えてあげてください。方法は変わっても、営業という仕事の価値は時代を超えて何も変わってはいないのです。方法がわからないことを悲観する必要はありません。なぜなら、あなたも新しい時代の初心者であり、新人たちと同じだからです。それを正直に、伝えるべきでしょう。営業の楽しさとすばらしさを伝える、方法は一緒に考える。そんな謙虚さも必要かもしれません。

 かっこつけて、過去の栄光と精神論を押しつけることはやめましょう。話している方は気持ちはいいかもしれませんが、かれらは「うざったい」と思っています。
 
 ここ数年のITビジネスにおけるパラダイムの変化は、劇的なものです。過去の延長線上に未来はありません。位相が変わってしまったというべきでしょう。この変化を彼らは敏感に読み取っています・・・というか、この変化をむしろ常識と受け取っているのです。そんな彼らを信じ、方法は任せてみてはどうでしょうか。そう、足を引っ張ることだけはやめにしませんか。それができる先輩上司は、きっと部下にも敬意を払われるはずであり、結果として、新しい時代を乗り切ることができる会社になるのではないかと思います。


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2011年7月16日土曜日

自分にできること、そしてITのできること:南三陸町を訪ねて



 「唖然」。被災地を訪れた方は、同様の印象を持たれる方も多いのではないでしょうか。

 何もかもかもが破壊し尽くされ、木っ端微塵に砕け散っている。ビルの鉄骨や線路も飴のように曲がり、自動車はまるで粘土でもこねるかのようにぐちゃぐちゃになっていました。

 テレビではどんどんと水が押し寄せてくる光景が映し出されていました。しかし、その下で水は大きくうねり、渦を巻いていたのだそうです。その渦に巻き込まれ、いろいろなものにぶつかりあいながら、まさに粉々に様々なものを砕いていったそうです。

 がれきをみるとよくわかりますが、どれも形をとどめていません。まさに粉々です。映し出された映像からはみることのできない大きな力が、街をこんなにまで破壊し尽くしてしまいました。
 
 この写真は、南三陸町の商店街があったところだそうです。何も残っていません。改めてこの場所に立ち、テレビはみることのできない津波の恐ろしさをからだ全体で感じてくることができました。
 
 7月10日(日)、私たち10人は、震災直後から被災地でボランティア活動をされているトライポッドワークスの佐々木さんにつれられて、南三陸町の避難所を回り、生活用品やパソコンを届けるお手伝いをしてきました。
 
 佐々木さんの会社は、仙台に本社を構えるIT企業で、セキュリティ機器の製造販売で業績を伸ばされています。5月9日に開催した「緊急営業会議:3.11後のITビジネスと営業の役割」というイベントがきっかけで知り合うこととなり、今回の南三陸町訪問となりました。
 
 彼は、「ITで日本を元気に」という団体を立ち上げています。この団体は情報の入手も発信もままならない被災地にパソコンを配り、情報の断絶を解消し、地元からの声を直接届けられるようにしようと取り組んでいます。全国の企業や団体、個人から新品や中古のパソコンをもらい受け、それを現地に届けつつ、避難所に現地が求める生活物資を届ける活動をされています。
 
 「私に何ができるのだろうか」。そんなことを漠然と考えていました。そんなとき、彼と出会う機会がありました。彼は、東北の企業が、この震災でますますビジネスのチャンスを減らしていること、この事態を脱するためには、東北という限られた市場に留まることなく全国に、あるいは、世界に市場を広げてゆかなくてはならないこと。東北には優秀でまじめな人材がたくさんいること・・・などを話されていました。
 
 彼が仙台に会社を興したのもこの優れた人材を期待したためとのこと。そして、はじめから市場を東北ではなく東京や全国に定めて事業を始められ、大変なご苦労もされたようですが、今は大きく業績を伸ばされています。
 
 「地元の大企業の下請けに甘んじているだけではますますじり貧になる。全国に発信できるマーケティング力や営業力を持たせなければ、この震災でますます元気をなくしてしまう」。佐々木さんのそんな話を聞いて、「これだ!」と思いました。
 
 「佐々木さん、マーケティングと営業の実践ノウハウについて研修会を開けないでしょうか。」そんなことがきっかけで、「緊急研修会:ビジネス開発力養成講座@仙台」を7月11日(月)に開催することとなりました。私にできるささやかなボランティア活動となりました。
 
 佐々木さんから、「その前に地元の実情をみておいてほしい」とのお誘いを受け、今回の南三陸訪問となったわけです。
 


 今回の訪問の最大の成果は、「若い人たちのがんばり」そして「力強さ」を実感したことです。
 
 「千年に一度の出来事なのに何もしないではいられません。」と東京の会社を辞めてボランティアのリーダーとして活躍している人、自らも被災し自宅もお店も流されてしまいながらも大きな避難所の炊事班長として、腕をふるっているレストランのオーナー、家族を亡くしながらパソコンの配布に汗を流す女性、様々な方と話をさせていただき彼らのたくましさに元気をもらいました。
 
 「この震災で地域のコミュニティが崩壊してしまいました。また、避難所も抽選でどこに入れるかわかりません。ますます孤立感を深めている人たちも少なくありません。」自らも被災者である20代の青年はパソコンで最新の情報を届け、ウエブ上でコミュニティを再生し安心感を広げたいと、佐々木さんの取り組みに協力していました。彼は、連絡もままならない地域に分散する11の避難所の連絡会を立ち上げ、情報の共有や意見のとりまとめ、行政との交渉などに奔走しています。
 
 「最近の若いやつら」が、生き生きと活動している姿に、「こりゃあ、おじさんも負けてはいられない」と思わずにはいられませんでした。
 
 南三陸町の訪問で、スイッチが入りました。この震災は、大きな被害をもたらしましたが、これからを担う若い世代が力を発揮し、元気にしてくれています。どこかの国の政治家が未だ内輪もめに明け暮れ、これからの道筋をはっきりと示さないなか、彼らは文句も言わず自分たちの力で道を切り開いている。ささやかながら、これからも彼らを信じ、彼らに任せ、彼らを助けることができればと考えるようになりました。
 
 翌日の「緊急研修会:ビジネス開発力養成講座@仙台」も定員を超える参加となり、地元のみなさんの熱意を受け止めて参りました。そのあたりは、こちらをご覧ください
 
 たった数日の経験ではありますが、いろいろなことを感じ、学ぶことができました。
 
 震災直後に比べれば、生活はだいぶ改善されたそうです。しかし、震災直後のように支援物資が届くことは少なくなりました。また、季節も変わり、必要なものも変わってきています。それを買うにも店もなければ、お金もない人がまだまだいっぱいいます。まだ終わっていないのだということを、実感することができました。
 
 改めて、自分にできること、そしてITのできることを考えてみたいと思っています。

2011年7月9日土曜日

本物のおじさんになろう。そうすれば若者もついてくる。

 新入社員研修の講師をしていると「今年の新人はどうですか?」とよく聞かれます。しかし、本当のところ何が違うのかよく分からないのです。
 研修にもまじめに取り組んでいるし向上心も高い。自分のこと、会社のことをまじめに考えているようです。多分、宇宙人達とどうつきあえばいいのでしょうかという質問なのでしょう。新人を迎える上司や先輩としては、不安であるのも分かりますが、ことの本質はもっと別のところにあるのではないかと思っています。
 
 そう言いながらも、強いて自分の頃との違いを挙げれば、学生と社会人とのギャップの大きさを、とても強く意識しいることかもしれません。
 
 例えば、ビジネス・マナーへの過剰な気遣いです。服装や髪型、礼儀作法や言葉遣い、中には、自分のにおいが気になるので香水をつけた方がいいのかと質問した男性もいました。見た目については、私たちの時代は、お金もなかったしおしゃれの選択肢も少なかったので、そんなことを考えるセンスも余裕もありませんでした。豊かな学生時代を送ってきたからこその意識なのかもしれません。また、言葉遣いも「ファミレス言葉」などと言われ、自分の言葉使いに疑心暗鬼になっている人もいるようです。
 
 また、「OJT期間にやるべきこと」を書かせると、「先輩達と積極的に飲みに行く」とか「職場での人間関係を大切にする」と書く人がとても多いことに驚きます。裏返して考えれば、「そういうことが苦手なので、意識して頑張ります」ということなのでしょう。学生時代の友達や先輩後輩とは違い、会社という未体験の上司部下の人間関係をとても不安に感じているのではないでしょうか。
 
 中には、「同期との絆を大切にする」というものもありました。会社の中で本音で気楽に話し合えるのは同期の人間だけであり、小さなコミュニティから会社や社会という大きなコミュニティへ出て行くことへの不安の表れなのかもしれません。

 いずれにしても、どちらも人間関係をうまくやろうということを、とても強く意識しているように感じます。そういうことが苦手なのか、うがった見方をすれば、よく見られたい、ストレス無く過ごしたいという思いの強さの表れなのかもしれません。
 
 改めて、「人間関係」についての意識の違いを考えてみると、今の若者達には、私たち大人達の時代のような形式的上下関係や礼儀作法の尊重、男尊女卑の思想がまったくありません。先輩としての敬意は払うものの、仕事は仕事、プライベートはプライベートと割り切っている。男でも女でも、性の違いによる能力の差という思い込みはありません。おじさん世代よりも、ずっとドライでオープンなのです。
 
 一方、私たちおじさん世代は、あの辞任したどこかの国の大臣のように、席順や挨拶、座り方など、様々な形式について厳しい躾を受けてきました。また、男が上で女が下という暗黙の了解もありました。それができない若者達をしつけるのは当然と言わんばかりに、厳しく形式を求める。若者達は、よく見られたい、人間関係を大切にしなければと、形の上では従順ですが、その本音は自分の価値観とは大きく異なっているわけですから、それはもう大変なストレスでしょう。
 
 また営業の現場をみると、おじさん世代の上司は、高度成長期の成功により今のポジションを得た人がたくさんいます。彼らの時代は、お客さまに足繁く通えば、なにか仕事がもらえたのです。しかし、バブルの崩壊、リーマンショックと、ITが成長産業ではなくなった今、靴底を減らすだけの営業では仕事を増やすことができなくなりました。もっと戦略的に、もっと知的に頭を使わなくては競合との戦いに勝てない時代になったのです。
 しかし、その方法を知らない上司は、自分の存在証明のため、あるいは威厳を保つために旧泰然とした自分の成功体験を振りかざし、そのやり方を押しつけてくる。そして、うまくできなければ、「なんで俺の言うとおりにやらないんだ!だからうまく行かないんだ!」と部下の責任にする。部下にしてみれば、「あなたの言うとおりにやっていたら、もっと仕事になりませんよ」と思っているのです。
 
 お互いの疑心暗鬼、これもまた、若者にもおやじ世代の上司にも、大きなストレスになっています。そんな人間関係から生まれるストレスの積み重ねが、心の病の原因のひとつになっているのかもしれません。
 
 どうすれば、この問題を解決できるでしょうか。私は、おじさん達は若者達の気質や扱い方で気をもむのではなく、自分たちの置かれているビジネス環境や新しい時代の成長戦略を真剣に考え、それにふさわしい方法について、自分なりの思想をしっかりと持つことだろうと思うのです。自信を持って自分の考えを若者達に伝えること。それが、事態解決の最良の手段だと考えています。
 
 方法論や形式論を強要するのではなく、また、「俺の若い頃はなぁ・・・」と過去の栄光を振りかざし精神論やありがたい訓話を語るのではなく、今のビジネスやお客さまや競合他社への戦略について、自分なりに考えて、それを真摯に伝え、一緒に考えることです。その考えを押しつけるべきではありません。
 
 頭のいい若者達は、ちゃんとそれを理解できます。そして、今の時代にふさわしいやりかたを考えるでしょう。失敗もするでしょう、困難にぶつかることもあるはずです。そんなとき、いつでも聞いてもらえるという安心感を与えること。そして、答えを言う前に彼らの話を真摯に聞き、そして、自分の考えを自信を持って伝える。そんなセーフティ・ネットを作ることが、問題の解決には有効なのだろうと思います。
 
 「若者の気質や意識が変わったから、どうしようという」ではなく「時代が変わったから、だからどうしよう」という発想を持つべきです。それを考えることこそ、おじさん世代の役割です。若者とのつきあい方のテクニックより、本物のおじさんとしての価値を高めること。そうすれば、若者達もついてくるし、人間関係もうまくできるのではないかと思うのですが、いかがでしょう。


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2011年7月2日土曜日

IT業界は、「衰退産業」という言い訳

 「もはや、IT業界は、衰退産業ですよ。市場の伸びは止まり、利益もかつてのように上げることは出来なくなりました。」
 
 ある、SI事業者の営業役員から、こんな話を伺いました。確かに、ここ数年の情報サービス産業の統計を見ると、衰退とは言わないまでも、市場全体の成長の伸びは鈍化し、事業所の利益率や労働生産性は低下しているようにも見えます。リーマンショックをキッカケとした大幅な減収減益のあと、最近、仕事の量は増えているようです。しかし、以前のような利益率を確保することは、難しくなりました。
 
 この営業担当の役員が指摘するように、この市場をマクロに眺めてみると、確かに、成長産業から成熟産業へと大きく舵を切ったことは間違えないように思います。
 
 しかし、だからといって、自分たちの業績をこの市場の変化を理由にするというのは、いかがなものでしょうか。
 
 ITに限らず、どのような産業も市場の変化は避けて通ることは出来ません。その変化を先読みし、先手を打って対応するのが、経営であり、その先兵が、営業なのではないかと思うのです。
 
 SI事業者は、確かに、今厳しい価格競争に晒されています。そのような中にあっても、自らそれに対処し、確実に利益を上げているところもあります。
 
 例えば、ある中堅のSI事業者は、自らアジアに開発拠点を構え、上流やUI周りは日本で、コモディティ化し価格競争の厳しい開発や保守は、海外でという仕組を作り、お客様の厳しい単金要求にも応えられる体制を作っています。
 まだ、既存需要に支えられているのが現実です。しかし、お客様の要求に応えられる体制は整いつつあり、厳しい要求が出てきたときに、競合に負けず、しかし、確実に利益を確保できる体制は、営業の自信ににもつながっているようです。
 
 また、あるところは、数年前から中国に開発拠点を構え、現地で採用したエンジニアを3年間、日本に転勤させ、日本のお客様に貼り付けて、日本的な仕事の流儀を徹底的に学ばせています。そのあと、中国へ戻し、現地で開発に当たらせる仕組を作っています。これを繰り返すことで、中国であっても、日本的な仕事感覚で、仕事がてきる体制を整えつつあります。
 日本で仕事をさせる訳ですから、その間は、安くは出来ないのですが、彼らが帰国すれば、日本との意思疎通も容易にでき、安心して仕事をまかせることができ、しかも単金が安くできるようになりました。
 
 相当数の開発要員を運用要員、それも、運用設計や高度な運用技術に対応できる要員として再教育し、体制を大幅に転換する取り組みをされているところもあります。これは、仮想化やプライベート・クラウド化に伴う、高度な運用技術に対応できる新たな需要に対応しようというものです。また、マネージド・サービスを強化し、お客様のITアウトソーシングの需要にも応えるべく、体制を整えつつあります。
 日本の企業、特に大手は、運用のコストは下げたいが、海外に運用をまかせたくはないという意識は根強いようで、仕事を増やされているようです。
 
 ある企業は、Webアプリケーションの開発要員を大幅に増員すると共に、対応するフレームワークを整えて、これからの需要に先取りする体制を構えています。この分野については、まだまた人手不足であり、単金も高く、結果として利益率も高いようです。技術のコモディティ化が進み、価格競争の厳しい既存システムにかかわる保守需要を切り捨て、新しい分野にでることは、勇気のいることだとは思います。しかし、時代がそれを求めていることは確かであり、その手応えを感じ始めているようです。
 
 このような時代の変化をうまく捉え、「衰退産業」と言われるこの業界の中でも、確実に業績を上げている会社がある一方で、コモディティ化した技術にしがみつき、自らを厳しい価格競争に晒している企業もあります。
 
 もちろん、今を食べてゆかなければなりません。そんなリスクは犯せないという考え方も、多くの社員を抱える経営者の気持ちとしては、当然のことです。しかし、もはや過去の成功体験が通用しない時代です。新しい、成功体験を自ら作り上げてゆく気概が必要なのではないでしょうか。
 
 時代の流れを先取りし、積極的な取り組みをしている企業に共通している点は、「経営が営業を信頼している」ように見えます。
 
 お客様の第一線に接する営業が司令塔になって、社内のリソースをうまくとりまとめています。それを経営者が支援しています。
 
 残念ながら、過去の成功体験から抜け出せず、未だその法則をかたくなに守り通そうとする経営者もいます。彼らの言訳は、決まって、「そんなことに優秀な人材を割いてしまったら、どうやって今を乗り越えればいいんだ。それより、今のスキルで、新しい仕事を取ってくることに営業は優先してもらいたい」というものです。
 
 営業の現場は、「だからダメなんだよ」と意欲をなくしてしまいます。魅力的な商品がないままに、お客様の需要がそこにないままに、売ってこいと言われても、それはもう、大変なことなのです。
 
 そんなお互いの疑心暗鬼がある企業は、「もはや、IT業界は、衰退産業ですよ。」という言訳しかできないのでしょう。
 
 時代の流れは、待ったなしで、速度を速めています。ITは、その変化の最前線にいるのです。
 
 私は、IT産業は、「衰退産業」であるとは考えていません。「成長の方向が変わった」と考えています。ですから、今までの方向に進む限り、需要は確実に減り続けるでしょう。だから、新たな方向を模索すべきなのです。
 
 新たな方向に目を向けられる営業力、それを支える経営の信頼。新しい営業のあり方が求められているように思います。


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